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「輪島で1300年続くお祭りを続けたい」16歳からお祭りに奉仕する女性神主さんの想い【重蔵神社(石川県)能門亜由子禰宜インタビュー】

最終更新:2021年05月07日公開:2021年04月19日

「一生に一度のお祭りをずっと楽しみにしてくださっている氏子さんのために、少しでも貢献したいんです。」

そう語ってくださったのは、石川県輪島市にある重蔵神社(じゅうぞうじんじゃ)の神主、能門 亜由子(のと あゆこ)さんです。

月間120万ユーザーが集まる神社お寺・御朱印の検索サイト「ホトカミ」では、 「神主さんの言葉を通じて、神主さんや神道の魅力を伝えたい」という想いから日本全国10名の神主さんのインタビュー記事を公開しています。

第9弾となる今回は、
「御朱印の種類が100種類を超えた理由」
「1300年続く『見て覚える』お祭りの伝承方法」
「輪島の人々の暮らしの中心にあるキリコ祭り」など、
16歳から神主として神社に奉仕する能門さんの、お祭りや輪島に対するひたむきな想いをお伝えします。

    目次
  1. 100種類の御朱印で、輪島と人々のご縁を繋ぎたい
  2. 生まれながらの神主として、全国でも珍しいお祭りに奉仕する
  3. 「見て覚える」お祭りの伝承方法
  4. コロナ禍のキリコ祭り縮小で感じた「暮らしの中心にあるお祭り」
  5. 輪島の文化を守りたい、お祭りを続けたい

100種類の御朱印で、輪島と人々のご縁を繋ぎたい

重蔵神社では季節やお祭りの御朱印をはじめ、多種多様な御朱印をいただけますね。
これまで100種類以上もの御朱印を授与されてきたと伺いましたが、どのように種類が増えていったんですか?

神社に来てくださる方々に「どんな御朱印がいいですか?」と聞きながらデザインを考えるうちに、どんどん種類が増え、いつの間にか100種類を超えていました。

具体的なデザインには、季節の花を取り入れたり、私自身が和装をする機会も多いので、お着物の柄からヒントを得たりもしますね。

小さい頃から日本舞踊を習っていて着物に親しみがあることや、幼い頃に美術館や博物館に連れて行ってもらって芸術に触れていた経験も、今に活きていると感じます。

そうやって考えた御朱印を参拝者の方に喜んでいただけると、私も嬉しいです。

参拝者の方の声を大事にされているんですね。
能門さんが御朱印に力を入れられるようになったきっかけは何ですか?

大きなきっかけは、平成19年の能登半島地震とその復興です。

能登半島地震では、重蔵神社の鳥居が倒れるなどの被害がありました。
境内から少し離れたところにある、「産屋(うぶや)」という神社の建物も被災したんです。

震災の後、北陸新幹線が同じ石川県の金沢まで開通しました。
重蔵神社のある輪島では、地震からの復興に加えて、観光地として新たな取り組みをする機運が高まっており、輪島の文化を伝えるための施設を建設しているところでした。

地震で被災した産屋を新しく建て替えるにあたって、同時期にリニューアルオープンした「輪島塗会館」と「キリコ会館」と「産屋」で観光客の動線を繋ぎ、輪島の地域全体を楽しんでもらうようにしました。 「輪島塗会館」は、輪島の伝統工芸である輪島塗を伝える施設で、「キリコ会館」は、輪島の夏のお祭りで使う’キリコ’という大きな灯籠を展示する施設です。

すると、輪島を訪れた方に産屋を知っていただく機会が増え、重蔵神社に毎月お参りしてくださる方も増えたんですね。

重蔵神社がある輪島は「奥能登」という地域に位置し、同じ石川県の金沢の人たちでさえ「遠い」と感じる、アクセスしにくい場所なんです。

そんな輪島に毎月足を運んでお参りしてくださる方に、輪島を楽しんでもらいたいという想いから、月替わりの御朱印を始めました。

また、昨年はコロナの影響でお祭りの中止が相次ぎ、輪島に訪れてくださる方も減ってしまいました。 そこで、御朱印を通じて輪島の美しい風景を知っていただこうと、写真御朱印も始めました。

生まれながらの神主として、全国でも珍しいお祭りに奉仕する

重蔵神社の神主さんとして、自身の得意分野を活かしつつ、日々ご奉仕されているんですね。
そもそも能門さんは、どのような経緯で神主さんになられたのですか?

私が21代目として生まれた能門家は、重蔵神社の神主として600年以上続いてきた家系です。
私は長女なので、幼い頃から神社を継ぐように父から言われていました。

神社で生まれ育ち、物心つく頃から神社やお祭りのある生活が当たり前だったので、
自分がいずれ後継ぎになるという境遇を自然と受け入れていましたね。

3歳頃から巫女として神社の手伝いをはじめ、16歳からはご祈祷などの神主の仕事もするようになったんです。

16歳から神主さんとして奉仕されている方はなかなかいらっしゃらないと思うのですが、当時はどのような心境でしたか?

神主として奉仕するまで、重蔵神社のお祭りのことはあまり知りませんでした。
10代の頃は、初めて見るお祭りについて知ることが楽しかったです。

なかでも、16歳で初めて「如月祭(きさらぎさい)」にご奉仕させていただいたときは、
「こんな世界があるのか」と驚いた記憶があります。

如月祭(きさらぎさい)
如月祭は、毎年3月1日〜7日に行われる重蔵神社特有のお祭りです。
お当(おとう)と呼ばれる49歳の氏子の男性が、お祭りを執り行います。
お当は1週間女人禁制の建物に籠って身を清め、天下泰平・五穀豊穣・氏子の繁栄を祈願します。

如月祭のなかに、「いどり祭」という儀式があります。
「いどり祭」の「いどる」とは、「難癖をつける」という意味の方言です。
いどり祭では、前年のお当が新しいお当に対して難癖をつけ、その難癖に対して新しいお当が弁解します。

例えば昔は、新しいお当に対して、輪島に存在しないものを持ってくるように無茶振りをすることもあったそうです。

新しいお当は、お祭りをする資質があるか、先輩である前年のお当に試されるんですね。
最終的には、前年のお当に認められ、無事にお祭りを任されるんです。

初めての如月祭では、この「いどり祭」をはじめ、見たことのない世界を目の当たりにして純粋に楽しかった思い出がありますね。

他の地域の神社にはない、独自のお祭りが残っているんですね。

他の神社の神主と一緒にお祭りの作法について勉強したときは、「うちと全然違う!」とびっくりしました。
重蔵神社には、如月祭だけでなく、全国的にも珍しいお祭りがたくさんあります。

「見て覚える」お祭りの伝承方法

数百年もの間、独自のお祭りを守り伝えるのは相当大変だったのではないでしょうか。
重蔵神社の珍しいお祭りはどのように伝承されてきたのですか?

お祭りの作法は、すべて見て覚える形で受け継がれてきました。
言葉で説明するだけでは、伝承できないんです。

1年に1回しか行われないお祭りばかりなので、1回でも多く見て覚えるように父から言われていました。
ゆくゆくは自分が継承しなければならないと思いながら、必死に動きを覚えようと頑張ってきましたね。

16歳からお祭りと向き合い続けるなかで、お祭りに対する考え方や、気持ちの変化はありましたか?

最初はただ楽しさを感じてご奉仕していたのですが、長くご奉仕するにつれ、お祭りを維持・継続する難しさを強く感じるようになりました。
人口減少と高齢化により、お祭りをお手伝いしてくださる氏子さんがどんどん減っています。

重蔵神社の神主は見て覚える形でお祭りを伝承してきた、と話しましたが、
氏子のみなさんも私たち神主と同じように、前年のお当から新しいお当へ、見て覚える形で継承されているんですね。

わかりやすいマニュアルがあるわけではないので、お祭りを維持するためには、毎回のお祭りに参加することがとても重要なんです。
そして、伝承の過程で地域の人々の縦や横の繋がりも強固になります。

しかし今年令和3年は、新型コロナウイルスの影響で例年よりもお祭りの規模を縮小することになりました。
そのうえ、体調の優れない父に代わって初めて私が中心となって、お祭りを執り行ったのです。
例年通りのお祭りができないため、不安でした。

如月祭にお当として奉仕するのは49歳と決まっているので、一生に一度しかありません。
その如月祭を何年も前から準備して、楽しみにしてくださっていた氏子さんもいます。

初めて父に代わって無事にお祭りを終えられたことは、良かったです。

ただ、コロナ禍の影響でお祭りに参加できなかった氏子さんがいたこと、
お祭りのあとのお食事など、氏子のみなさんが楽しみにされていた部分を縮小しての開催になったことは、本当に悔しかったです。

コロナ禍のキリコ祭り縮小で感じた「暮らしの中心にあるお祭り」

コロナ禍の影響で、やはり例年通りのお祭りができなかった部分もあったんですね。
他にはどんなお祭りがありますか?

輪島には「キリコ祭り」という夏のお祭りがあります。
「キリコ」とは、担ぎ棒のついた巨大な灯籠のことです

キリコ祭りでは、キリコが輪島市内を巡行します。
明かりの灯ったキリコがたくさん並んでいる景色は、とても美しいんですよ。

キリコは輪島塗でつくられているので、とても豪華絢爛な芸術品なんです。
そんな芸術品であるキリコが荒々しく動くというギャップが、とても面白いです。

また、巡行するキリコに合わせて笛や太鼓の音が鳴るのも好きです。
太鼓の音で地響きがするくらい、迫力がすごいんですよ。

また、お祭りに関わったみんなでご飯を食べたりおしゃべりをするのが、氏子さんたちの楽しみでもあります。

しかし、昨年令和2年はコロナ禍の影響で、キリコ祭りも大幅に規模を縮小しました。

例年通りのキリコ祭りを開催できなかったからこそ、感じたことはありますか?

輪島の人たちは、輪島を離れた人に「お盆や正月は無理でも、キリコ祭りのときだけは帰ってこい」と言ったりします。

お祭りが、暮らしの中心にあるんです。

お祭りに参加することで味わえる高揚感と、お祭りが終わった後の「ちょっと寂しいな」という気持ちは、日常生活では感じることのない独特の感情だと思うんですよね。

お祭りがあることで、日常に刺激が加わって1年間を楽しく過ごせるのだと思います。

私自身も、氏子さんに楽しんでいただけるように少しでも貢献できたらいいなという想いでお祭りに奉仕しています。

今年、令和3年こそは、賑やかなキリコ祭りを開催したいですね。

輪島の文化を守りたい、お祭りを続けたい

ここまでのお話から、能門さんが輪島のお祭りや神社の氏子さんを本当に大切にされていることが伝わってきました。
そんなお祭りや神社の中心にある神道について、能門さんはどのようにお考えですか?

日本人の生活の中に必ずあるのが神道だと思います。
でも、学校でも宗教については教えてもらえないですし、知るきっかけが少ないです。
神道の考え方に沿って生活していることに気づいていない人も多い。

だからこそ、神社のお祭りに参加する経験は、神道を分かりやすく体感できる良い機会だと思うんです。
お祭りで大事な役を務めることになってものすごく緊張したり、みんなで盛り上がったりする非日常な感覚が、普段の生活にメリハリを与えます。

日常と非日常のメリハリのことを「ハレとケ」と言いますが、これが1年間を健康に過ごす上ですごく大事な価値観だと思います。

こうして生活を豊かにするお祭りという文化が、神道の魅力ですよね。
皆さんにも、お祭りにはたくさん参加していただきたいです。

重蔵神社の神主として能門さんは、どんな役割を果たしていきたいと思われますか?

私は神主の家に生まれ、父や祖父から輪島の昔ながらの生活について教えられて育ちました。
だから、輪島の皆さんに輪島の文化をお伝えするのも、神主としての私の役目だと思うようになったんです。

輪島でも、家族の中で文化を伝承していくことが難しくなっています。
例えば、昔はお母さんから地域の郷土料理を教えてもらう機会もあったと思うんです。
でも、核家族化が進んでいる今の状況だと、文化が継承される機会が少なくなってしまいますよね。

そんな背景もあり、商工会議所と協力して輪島の昔ながらの風習を伝える「輪島学」という講演もさせていただいています。
「これまでお祭りは見ているだけだったけど、はじめて由緒が分かった」などと感想を言っていただけて嬉しいです。

最後に、能門さんが輪島のために頑張ろうと思える原動力はなんですか?

一生に一度のお祭りをずっと楽しみにしてくださっている氏子さんのために、少しでも貢献したいという一心です。

高齢化と人口減少の影響で、20年後の重蔵神社は、氏子さんがほとんどいない神社になってしまうという問題があります。
それでも、できる限りお祭りや輪島の文化を長く残せるようにしたいんです。

40歳で初めて子供を産んだときに「やりたいことは全てやる」と決めました。
進みは遅くても、自分の力でコツコツと取り組んでいきたいです。

長く神社にご奉仕するにつれ、いろんな職種の方達との関わりも増え、地域のためにやりたいことも増えてきました。
過去の経験が全て今に繋がっていると感じるので、これは神様が導いてくださったのかな、と思います。

お祭りや輪島の文化を伝承していくためにも、 氏子さんのために、地域のために、力を尽くしていきたいと思います。




【重蔵神社の情報】
所在地:石川県輪島市河井町4-68
アクセス:バス停「重蔵神社前」下車すぐ
のと里山空港ICから車で20分
電話番号:0768-22-0695
公式ホームページ:重蔵神社
ホトカミ:重蔵神社

協力:神道青年全国協議会

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