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18代目の青年神主、東京・御岳山で宿坊を営み、信仰を守る【武蔵御嶽神社(東京都)馬場慶太郎権禰宜インタビュー】

最終更新:2021年05月07日(金)
公開:2021年04月21日(水)

東京の西部にそびえ立つ御岳山(みたけさん)
古くは山岳信仰の修行の場所として発展し、多くの人々の信仰を集めました。

御岳山の山頂付近には、御師(おし)と呼ばれる人々が営む宿坊(しゅくぼう)がおよそ30軒あります。
御師とは、参拝者の案内や宿の提供、ご祈祷、お札の配布をする「神社案内人」のこと。
御師が現存する神社は全国にも数えるほどしかなく、武蔵御嶽(むさしみたけ)神社はその伝統を遺す貴重な神社です。

武蔵御嶽神社の拝殿と馬場権禰宜

月間120万ユーザーが集まる神社お寺・御朱印の検索サイト「ホトカミ」では、 「神主さんの言葉を通じて、神主さんや神道の魅力を伝えたい」という想いから日本全国 10名の神主さんのインタビュー記事を公開します。

最終回は、武蔵御嶽(むさしみたけ)神社の馬場慶太郎さん。
武蔵御嶽神社の権禰宜(ごんねぎ)であり、宿坊・駒鳥山荘(こまどりさんそう)の御師も務めています。

「御師とは何か」にはじまり、「神道の考え方」「神主になるまでの経緯」「御師や講といった文化継承への想い」をうかがいました。

    目次

  1. 御師は山の文化や生活、そして参拝者を守るためになんでもやります
  2. 御岳山の宿坊の18代目に生まれ、御師の道へ
  3. 国際化の時代だからこそ、自国の文化を大切にしてほしい
  4. 変化の激しい時代の癒しとなるよう、御岳山の文化や自然を守りたい

御師は山の文化や生活、そして参拝者を守るためになんでもやります

馬場さんは18代目の御師として、ご実家を継がれたばかりとのこと。
御師として、どんなお仕事をされているのですか?

御岳山に住む御師は皆、武蔵御嶽神社の神主として神社で奉仕しつつ、 家族で営む宿坊にて参拝者をもてなします。

私の宿坊では、宿泊されるお客様のご案内に始まり、お風呂や部屋の掃除、料理、予約の管理に至るまで、すべてを母と2人でやっています。

馬場さんの宿坊・駒鳥山荘(こまどりさんそう)

神社で奉仕する日が週に1,2回決まっていて、その日は朝から夕方までずっと武蔵御嶽神社でご祈祷や参拝者のご案内をします。
神社には常に2人の神主が泊まることになっているので、神社で夜を明かす日もあります。

その他にも、東京都の無形文化財に指定されている太々神楽(だいだいかぐら)を舞ったり、 各地の講(こう)をまわってお札を配ったりといった武蔵御嶽神社の御師ならではの仕事もあります。


神社仏閣への参詣や寄進などの目的でつくられた団体。
講に属する家から集めたお金で代参人を選び、講を代表して神社参拝を行った。
行楽や情報交換の手段として、伊勢講や冨士講などが江戸時代に流行したが、その多くは廃れてしまった。
武蔵御嶽神社を信仰する御嶽講は、現在も関東各地に存在する。

さらに、急病人やケガをした登山者を、ふもとの病院まで運ぶ消防団にも御師や山の住民が参加しています。
観光協会での山の方向性の決定も、集落の自治会の運営も、森林の整備も、我々の仕事です。

他の地域では専業の人がいるような仕事も含めて、何足ものわらじを履いてやっていますね。
それぞれの仕事でプロフェッショナルである必要があり、とても大変ですが、御師や御岳山を後世に残すためにはどの仕事も欠かせません。
大切な文化を守るべく、御師たちで協力しあっています。

神社だけでなく、御岳山全体や集落に必要な仕事をすべて御師の方々がやっていらっしゃるのですね。
本当に大変な毎日だと思いますが、どんなときにやりがいを感じますか?

宿坊に泊まった方やお参りに来られた方に、「ありがとう」と言っていただけると嬉しいです。
喜んでいただけることが、やりがいですね。

宿泊された方が、帰ってから手紙を送ってくださることもあります。
御岳山にはヨーロッパをはじめ海外からの観光客が多く、国内外から手紙が届くのは嬉しいですね。

インタビューに応じる馬場さん

これまで宿泊された方々がお手紙をくださるということは、本当に貴重な経験をされたのだと感じます。
どんなことを大切にしながら、お参りされる方と向き合ってらっしゃるんですか?

せっかくここまでお参りくださった方々には、御岳山の歴史や神道の考え方を伝えたいと思いながら接しています。

たとえば、「御嶽講が関東一円に広まったのは、御岳山が関東中から見ることのできる山だったから。
『遠くに見えるあの山に行ってみたい』という気持ちから信仰心が広がっていきました。」などと、説明すると勉強になったと言ってくださる方が多いんですよ。

また、初宮参りや七五三で神社にお参りするのは、神様に奉告するため。
神様は常に守ってくださっていますから、「無事生まれました」「ここまで大きくなりました、ありがとうございます」「これからもどうぞお守りください」と感謝の気持ちを表してほしいと伝えています。

神道の精神は、すでに我々日本人の生活や習慣に深く結びついています。
その考え方に気づいたり、改めて知っていただければ、お参りする方の気持ちも変わり、もっと神社・神道について興味をもっていただけるのではないかと思います。

インタビューの前にお参りして、馬場さんに神社を案内していただいて、とても勉強になりました。

神主に直接教えてもらえるからこそ学べること、気付けることもたくさんありますよね。

御岳山の歴史や神道について皆様にお伝えすることは、御師の本分です。
宿坊にご宿泊していただけることで、神社にお参りしてすぐに帰るのではなく、御岳山に長く滞在していただけます。

私としては、皆さんと話す時間を多く持てることもあり、より御岳山の魅力を感じていただける良い機会だなと思います。

御岳山の宿坊の18代目に生まれ、御師の道へ

馬場さんはどういった経緯で御師になられたのでしょうか?

私は御岳山の宿坊・駒鳥山荘(こまどりさんそう)を営む家に生まれました。私で18代目になります。
「駒鳥山荘の跡取り」と言われて育ちましたから、物心ついたころには自分は将来「御師になって宿坊を継がなくてはならないものだ」と思っていました。

ただ正直なことをいうと、大学を卒業するくらいまでは家を継ぎたくはありませんでした。
父の意向で神主になるための学校である國學院大学に進学しましたが、「それぞれが自由に職業を選択できるこの時代に、なぜ自分の将来は決まっているんだ」と反発していました。

しかし、國學院大学で4年間勉強するうちに、18代続いている歴史の重みに気付いたんです。
「私の代で先祖代々継承してきた御岳山や宿坊を潰すわけにはいかない」と思いました。

インタビューに応じる馬場さん

平成27年に大学を卒業した後はすぐに御岳山には戻らず、都会の神社に奉職しました。
神主として奉仕し始めて気付いたのは、神社や神様をありがたいと言ってお参りに来てくれる方々の存在。
参拝者と実際にお話ししたり、社務をこなしていくなかで、神社は大切な日本の文化であり、守らなければならないものだと強く感じるようになりました。

また奉職した神社には幼稚園が併設されていて、幼稚園児に神社の年中行事や作法について教えたり神社を案内したりしました。

参拝者や幼稚園児との交流を通して、神社の仕事はとてもやりがいがいがあるものだと感じたんです。

こうして3年が経ったころには、神主として伝統を守りながら生きていく決意が固まっていました。

平成30年に御岳山に帰ってきました。
その後、父が病気で亡くなり、現在は武蔵御嶽神社の神主を兼ねながら母と2人で実家の宿坊を経営しています。

国際化の時代だからこそ、自国の文化を大切にしてほしい

3年間奉仕された都会の神社と、武蔵御嶽神社や宿坊にお参りされる方の違いはありましたか?

コロナ禍前は宿坊に泊まる方のおよそ半分が海外からのお客様でした。

日本に強い興味を持っている方々なので、神社や神道に詳しい方が多いんですよ。
海外の方々が日本人よりも神道や日本文化について詳しいことを、とても恥ずかしく感じることもありました。

私は、神道は「宗教」というより「文化」や「伝統」に近いものだと考えています。
国際化の時代だからこそ、アイデンティティとなる自国の文化を知り、大切にしてほしい。

そのためにも、参拝される方に神社の由来の案内や参拝の作法を丁寧に説明するよう心がけています。

具体的にはどういったお話をされているのですか?

例えば、社殿のなかに入ってご祈祷を受ける昇殿参拝(しょうでんさんぱい)のときはしっかりした格好でお越しいただくようお伝えしています。

結婚式に行くときには、「人間」である新郎新婦に敬意を払って礼服を着ますよね。
より一層の敬意を払うべき「神様」のいる場所に、半ズボンやTシャツで来るのは失礼だと思うんです。

拝殿のなかで参拝者をご案内する馬場さん

武蔵御嶽神社は山頂に位置するうえ、登山者や観光客の多い神社なので、神様へのお気持ちがあればいいという考えもあると思います。
一方で、神道のお参りの作法にはすべて理由があって、まず神様に敬意を表すことがとても大事です。

武蔵御嶽神社は山岳信仰や修験道の影響で仏教的要素も強いので、他の神社で奉仕していたときよりも説明が難しいです。
人に教えるとまだまだ自分が理解していないことが見えてくることも多いため、日々勉強しながら皆様にご説明しています。

変化の激しい時代の癒しとなるよう、御岳山の文化や自然を守りたい

武蔵御嶽神社は、独特の歴史をもっていますよね。
御師は今でも講回りをしてお札を配っていると聞きます。

御嶽講では春に代参人が武蔵御嶽神社に参拝し、秋から冬にかけては御師が講のある村まで行ってお札の配布やご祈祷を行います。
これを「講回り」といいます。
私も毎年、東京はじめ埼玉や神奈川まで講の方々にお札を配りに行っています。

昔ながらの講のあり方を維持していて、例えば米農家の多い埼玉県の山田村では、今も新米一升とお札を交換しているんですよ。
神社に納めるお金である初穂料(はつほりょう)は、もともとその年に初めて収穫された稲穂を神社に奉納していたことに由来します。

講の方々からその年にとれたお米をいただいて御岳山に帰り、神様にお供えする。
山田村に行くときは「これが昔ながらの御師なのだな」と強く感じます。

ケーブルカーのなかった時代の御師は、米を馬に担がせたり、背負って山を登っていました。
今は車をはじめとした文明の利器がありますから、御師の仕事もご先祖様の時代と比べるとだいぶ楽になっているかもしれません。
しかし、高齢化や少子化が進むなかで、これからも講の文化を守らなくてはならない。
未来の講を維持するシステムを作ってゆくことも私の責任だと思っています。

講の維持のために、どのような取り組みが必要だと思われますか?

まずは、講や武蔵御嶽神社について知ってもらうことからはじめて、参拝者を増やす努力をしていきたいです。

山に来る方が増えれば、御岳山で育った子供たちが私と同じように「歴史を守らなければならない」「山に帰れば仕事がある」と思えるようになります。

実は私が御師になったとき、「20年ぶりに山に人が帰ってきた」と言われました。
後継者がいないんです。
御師をはじめ山にはたくさんの仕事があるので、私一人だけ山に帰ったところで、いずれは手が回らなくなってしまいます。

日本全国のお社にもいえることかもしれませんが、 守るべきところはしっかりと守りながら、時には形を変え、ある程度柔軟に対応していかなければ、その文化や信仰を維持するのは難しいのではないかと危機感を持っています。

インタビューに応じる馬場さん

守るべきところと、変えてもよいところの基準はありますか?

すべての基準は神様です。
神様に対して、絶対に無礼があってはいけません。

御師や神主の仕事に限らず、日常生活でも神様が基準になっています。
小さいころから悪さをするたびに「神様は見てるぞ」と言われて育ちました。
ですから、人が見ていないところでも「神様に対して恥ずかしくない行いを心がけよう」と常に考えています。

最後に、今後の展望などがあればお聞かせください。

御岳山全体をより良い地域にしたいです。

変化の激しい時代のなかで、御岳山を変わらずに守っていきたい。
目まぐるしく変化する社会に精神的疲労を感じたり、ついていけないと感じたときの癒しとして、また心の拠り所のひとつとして、御岳山の自然や歴史を体験していただきたいと思っています。
そして山のなかで楽しく仕事をして、次世代の後継者たちが安心感をもって山に帰り、さらに次世代へと続いていけられるような環境づくりができるよう日々精進してゆきたいです。

インタビューに応じる馬場さん

【武蔵御嶽神社の情報】
所在地:東京都青梅市御岳山176番
アクセス:御岳登山鉄道ケーブルカー御岳山駅より徒歩25分
電話番号:0428-78-8500
公式ホームページ:武蔵御嶽神社
ホトカミ:武蔵御嶽神社

【駒鳥山荘の情報】
所在地:東京都青梅市御岳山155番
アクセス:御岳登山鉄道ケーブルカー御岳山駅より徒歩15分
電話番号:0428-78-8472
公式ホームページ:駒鳥山荘

協力:神道青年全国協議会

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