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創建1800年の歴史をつなぐため、神社の在り方を見つめ直す【和布刈神社(福岡県)高瀨和信禰宜インタビュー】

最終更新:2021年05月07日(金)
公開:2021年04月18日(日)

「僕たち神主の役割は、代々とタスキを渡すようなものだと思っています。」

そう語るのは、福岡県にある和布刈(めかり)神社の第32代目の神主、高瀨和信(たかせかずのぶ)さんです。

和布刈神社が鎮座するのは九州の最北端。
関門海峡の絶景を望むこの神社は、1800年前の弥生時代の創建であると伝わります。

鳥居と高瀨和信さん

月間120万ユーザーが集まる神社お寺・御朱印の検索サイト「ホトカミ」では、 「神主さんの言葉を通じて、神主さんや神道の魅力を伝えたい」という想いから日本全国10名の神主さんのインタビュー記事を公開しています。

第8弾となる今回は、由緒ある神社で、一般の会社で働いていた方を採用するなど、新しいことにも積極的に取り組まれる高瀨さん。

その行動力の根底には、神社のあるべき姿を伝え続け、次の世代により良い形で神社をつなげたいという想いがありました。

    目次
  1. 未経験からでも神主を目指す人を増やしたい
  2. 神社の由緒を大切にした体験を生み出したい
  3. 四季を伝え、人々の心を豊かにしたい
  4. 自分の代の最後の一瞬まで、しっかりと準備して、次につなぐ

未経験からでも神主を目指す人を増やしたい

和布刈神社では、一般の会社で働いていた方を採用していると聞きました。

和布刈神社では僕の他に、三笘(みとま)と伊比(いび)という職員が勤めております。

2人とも一般の会社で働いた経験があり、神社の生まれではなく、これまで神社で勤めたこともありませんでした。
さらに2人増える予定で、僕を含めた5人の体制になるところです。

和布刈神社では、神社に勤めたい人への間口が広いのですね。
三笘さんや伊比さんは和布刈神社ではどのような仕事をしているのでしょうか。

伊比さんは授与所で参拝の方への対応をしています。
伊比さんは以前、銀座の大手アパレル会社で働いていました。ずっと店舗でお客さんと接していたので、参拝の方が何を望んでいるのかを察知したり、相手に合わせて話し方を変えたり、対応が素晴らしいなと思っています。

三笘さんは、職員の働きやすさを考えたり、神社の仕組みを改善したりするところで活躍しています。
たとえば、お正月に来る短期間のお手伝いの方への対応も、三笘さんのおかげで改善されました。不動産会社で店長をしていた三笘さんの経験が活きていると感じます。

和布刈神社さんの全景

今まで神社に勤めたことがない人でも、それまでの経験を活かして神社で活躍できるのですね。
その一方で、一般企業とは異なる神社への考え方や仕事を身につけるのは大変なのではないでしょうか。

実は、実務については2週間ですべて教えてしまうのです。

また神主の資格は、神主の養成所に1ヵ月ほど通ってもらい、取得をしてもらう予定です。
神社ならではの仕事を知らない方が来ても、サポートができる体制になっています。

ただ、物事に向き合う姿勢が、神社と一般の会社では異なる点も多いのも確かです。
特に大切にしている部分については、行動や考え方のすり合わせをしますね。

たとえば、古来から日本人が生活のなかで大切にしてきた自然と共存する精神性への理解を深めるために、年に4回「月と四季」をテーマに授与所をしつらえ、縁起物を奉製してもらいます。

実際に、目に見えない精神性を具体的なデザインや言葉にすることで、さらに理解を深めることができるんですね。

ススキ

神主の資格を取るサポートもあり、神社に勤める姿勢まで教えてもらえるとは、心強いですね。
どんな点を大切にして、求人を募集されたのでしょうか。

神社に勤めることの魅力は一般の会社と全く同じではありません。

「働くにあたっての精神性や、人生の豊かさを大切にする人に向けて、和布刈神社のことを届けたい」という思いが伝わるような求人媒体を選んで掲載しました。

求人を出してみると、全国から30名以上の募集がありました。
求人にはこれからやりたいことや僕の想いを書いたのですが、共感してくださる人が全国にたくさんいると知って、とても嬉しくなりましたね。

先ほどの三笘さんも、求人の記事をきっかけに和布刈神社に応募をしました。
前職での三笘さんは、後輩からは慕われ、上司からは期待もされ、着実に昇進していたそうです 。

ただ、40歳になる節目で自分のこれからを考えたようですね。
「本来の自分は人と関わって、人や自分の心を豊かにするような仕事に就きたいのだ」と思い直したときに、興味のあった「日本の文化」というキーワードで仕事を探したところ、和布刈神社の求人を見つけたそうです。

一般の会社の出身の方が来ることで、むしろ僕が学ぶことも多いです。

こうした形で神主を目指す人が増えていけばいいなと思っています。

手を組んでいる高瀨和信さん

神社の由緒を大切にした体験を生み出したい

今日も和布刈神社は多くの参拝の方でにぎわっていますね。
高瀨さんが神社に勤め始めたときはほとんど参拝の方がいなかったと聞きましたが、にわかに信じられないです。

僕は和布刈神社に勤め始めて12年目になります。

和布刈神社で生まれ育ち、神主の資格を取って大学を卒業し、神社に帰ってきました。
その頃の和布刈神社は、お正月にだけ神社が開いている、という状況でした。

和布刈神社と同じくらいの規模の神社では、平日は学校の教師など他の仕事をしながらそれ以外の日に神主をしている「兼業神主」も多いのです。

僕も親の様子を見ながら、「何か他の仕事をしながら神社を継ぐんだろうな」と考えていました。

当時は神社に希望があるように思えず、将来が不安でしたね。

正月の和布刈神社

これからの神社をどうしていけばいいのか悩んでいた頃、ある方のアドバイスで、まずは神社の現状を整理し、それを踏まえて将来神社がどうなっていくのか、しっかり現実をみることにしました。

同時に、神社の由緒もあらためて勉強しなおしました。

私はあくまでも1800年の歴史のなかで、ほんの短い間、神社をお預かりしているに過ぎません。
だからこそ、神社の由緒を大切にしながらも現実と向き合い、未来に継承していくための方法を考えたいと思うようになりました。

新しい授与所

神社を継ぐ人が、実家の神社に帰ってきたときに、神社の運営に問題意識を持ちつつも、どうすればいいのか分からない場合があります。
そうすると、お守りや御朱印をきらびやかにする、といった手段を選んでしまうこともあるかもしれません。
それもひとつの手段ですが、やはり神社の由緒としっかりとつなげることが大事だと思います。

たとえば、和布刈神社では「満珠(まんじゅ)御守」と「干珠(かんじゅ)御守」というお守りを授与しています。和布刈神社が潮の干満にちなんだご由緒の神社であると伝えるため、それまで数十種類あったお守りの授与をやめ、満珠干珠お守りだけを授与所に置くことにしました。

満珠御守と干珠御守

また新しい授与所には、御神体の岩の一部があります。
参拝の方に授与品を渡す前には、その上に授与品を載せてから、「ご神徳をお分けします」という意味を込めて鈴を振ります。

まったく同じ由緒の神社はありません。
その神社でしか得られないような体験をつくりたいです。

御神体の磐座が欠けた一部

四季を伝え、人々の心を豊かにしたい

--高瀨さんにとって神道のどんなところが魅力だと思われますか?

ある先輩の神主さんが「神社は四季を感じる場所である」と真っ直ぐな眼差しで私に伝えてくださいました。

私たちの遠い祖先は、暮らしのなかで四季のうつろいを感じながら生活していました。
自然の力を神のはたらきと考え、生命の尊さを実感し、山や川、岩や木に神をまつり、自然を崇拝する場所として神社が建てられました。
昔は、自然に感謝する場として「生きやすさ」を求め、心を豊かにしていたんですね。

対して現代では「暮らしやすさ」に重点をおき、自然への尊さを感じる機会が減りつつあります。
モノや情報が溢れ、暮らしやすく便利にすることばかりを考えた結果、生きにくい世の中になっているのかもしれません。
もちろん、私もSNSやネットショッピングなど様々なツールを便利に利用しています。

しかし、慌ただしい毎日を過ごしていくなかで、ふと季節のうつろいを感じる瞬間もありますよね。
それは先人たちが見た、自然や生命の尊さを感じる心と同じものだと思います。
神社は、今も昔も人々の心を豊かにする場所だと思いますし、和布刈神社もそうありたいです。

海側からみた和布刈神社さん

自分の代の最後の一瞬まで、しっかりと準備して、次につなぐ

最後に神社で奉仕する際に大切にしていることを聞かせてもらえますか。

参拝の質を高めることに日々努力しています。

神社は、心を整えて清々しい気持ちになるところです。
参拝の方の想いが実際に叶うことを約束はできませんが、想いが叶うために最大限の努力をし、それを形にするようにしています。

たとえば、歩き方や目線、言葉遣い、ものの置き方ひとつとっても、凛とした印象を受けるように心がけたり、五感で感じていただける空間を追求してます。

僕も和布刈神社に帰ってきたときは、何をしたらいいのか全く分かりませんでした。
試行錯誤した結果、10年経って分かるようになり、今の和布刈神社があります。

高瀨和信さん

僕が継いだ当時の和布刈神社は、こころよく「継ぎます」と言えるような運営状態ではありませんでした。
僕には子どもがいるのですが、いつか神社を引き継ぐときに同じ気持ちをさせたくないな、と思っています。

神社をより良い状態にするので、子どもにはポジティブな感情で継ぐことを選んでもらいたいです。

僕たち神主の役割は、代々とタスキを渡すようなものだと思っています。
創建から1800年という和布刈神社の長い歴史の中で、僕が神主として勤めるのはほんの一瞬。

自分の代の最後の一瞬まで、しっかりと整えて次につなぐ。

それが僕たちの使命だと感じながら、日々努めています。



【和布刈神社の情報】
所在地:福岡県北九州市門司区門司3492番地
アクセス:『バス』めかり神社前 下車
『電車』門司港駅、下車 徒歩20~25分
電話番号:093-321-0749
公式ホームページ:和布刈神社|めかり神社
ホトカミ:和布刈神社
拝観時間:9時半~17時

協力:神道青年全国協議会

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