玄通寺

静岡県 蓮台寺駅

お話(はなし)の場所ばしょ　・・・　 南伊豆町石みなみいずちょう)

南伊豆町 一条みなみいずちょう いちじょうにある玄通寺げんつうじは、玄翁和尚げんのうおしょうの開山かいざんした寺てらでございます。

　この玄翁和尚げんのうおしょうが、えらい僧そうについて修行中しゅぎょうちゅうの小坊主こぼうずの頃ころでございました。
　 　下野しもつけの国くに（今いまの栃木県とちぎけん）那須野なすのが原はらに世よにも不思議ふしぎな殺生石せっしょうせきという石いしがありました。
　 「なんでも、古狐ふるぎつねが化ばけけたそうな。」　と、

　里人さとびとは口々くちぐちに噂うわさをしておりました。

　殺生石せっしょうせきは広ひろい十里四方じゅうりしほうもある野原のはらに、夜昼ゆるひるとなく毒気どくけをはいて、

　人ひとや家畜かちくを殺ころすほどの恐おそろしさでございました。
　うわさを聞きいた大和尚だいおしょうは 何なんとかしてこれを散ちらして人々ひとびとを救すくわなければと思おもいました。

　だけど、年としをとった自分じぶんはもう山やままた山やま、

　坂さかもあり谷たにも深ふかい那須野なすのが原はらまでは、とてもおぼつかないと、兄弟子あにでしに悪魔退散あくまたいさんの秘法ひほうを授さずけたのでございます
　　玄翁げんのうは自分じぶん はさておき、兄弟子あにでしにだけ秘法ひほう を伝つたえるのが気きにくわず、

　二人ふたりの話はなしをぬすみ聞ぎき きしたのです。

　玄翁げんのうは兄弟子あにでしに負まけてなるものかと、

　野のを越こ え、山やまを越こえ、悪魔あくま を追おい払はら う「魔呪品まじゅほん」という、

　お経きょうを唱とな えながら、殺生石せっしょうせきに近ちかづいていったのでございます。
　 あたりには、人影ひとかげ もなく、ぞっとするようなまるで地獄じごく の底そこのような不気味ぶきみ さが、漂ただよっているように思おもえました。

　玄翁げんのうは　殺生石せっしょうせきに近ちかづくや、

　隠かく し持も っていた玄翁げんのう（大おお きい金槌かなづち ）で

　大石おおいし をたたきこわしたのでございます。
　 　すると、さっと、するどい光ひかり が、稲妻いなづま のように、するどく空そら に飛とび散ちり、

　大雨おおあめ が降ふり出だ したのです。

　草くさ も木き も美うつくしく大雨おおめに洗あらわれ、

　那須野なすのが原はらにたちこめていた毒気どっけも、あとかたもなく、消きえ去さって、つやつやと緑いどりに輝かがやきだしました。

　玄翁げんのうは「魔呪品まじゅほん」のききめと、

　自分じぶん の腕うで によって、毒どく をはらいのけたと、得意とくい な顔かお をして、

　寺てらに帰かえったのでございます。
　　大和尚だいおしょうはこれを聞きいて、

　兄弟子あにでしをさておき、かってなふるまいをしたと、ひどく腹はらを立た て、とうとう玄翁げんのうを、寺てらから追おい出だしたのでございます。

　今いま 、大工だいく や石屋いしや の使つかう玄翁げんのうの名なは、

　この勇敢ゆうかん な玄翁和尚げんのうおしょうのの名な をとってつけられたということでございます。
　その後ご 、玄翁和尚げんのうおしょうは

　玄通寺げんつうじを開山かいざん、ますます修行しゅぎょう に励はげみ、

　あっぱれ一代いちだい の名僧めいそう とうたわれたのでございます。

　しかし、　

　「殺生石せっしょうせきの事件じけん は、大和尚だいおしょうに対たい して誠まこと に申もうし し訳わけ ないことでございます。

　私わたし が死し んだら、罰ばつ として、位牌いはい に縄なわ をかけてくだされ。」
　と、遺言ゆいごん されたため、玄通寺げんつうじの位牌いはい には、
長なが く長ながく、あら縄なわ をかけられていたそうでございます。