おかげさま

輪橋山徒然話　2024-2-19. 「おかげさま」

◆ご法事でご一緒したご婦人のことを思い出した。ご婦人は数年前にご主人を亡くされ、お子さんは各自、他県で家庭をお持ちの方で家族は愛犬。この愛犬の散歩だけは少々の雨でも欠さないそうだ。

◆その方は私にこう言った。

「犬の散歩している間じゅう『おかげさま』と心の中で繰り返していうようにしています。」

◆こんな感じだそうだ。
「おかげさま」「おかげさま」「おかげさま」「あんた(小犬)は元気ね。おかげさま。」「おかげさま。」「今日は朝からこんないい天気でおかげさま。」「昨日より日が濃いはおかげさま。」「お空の雲におかげさま」。そうしているうちに、目に入るもの全てが愛おしく思われるという。そんな「おかげさま」の毎朝なのだそうだ。

◆さて、「おかげさま」とは、陰に隠れて見えないけれども私たちを支え、護ってくれているものをいう。このご婦人にとっては、先に逝かれたご主人、母、父、祖母、祖父、お友達…。そして、今日1日の恵みへの感謝だ

◆「おかげさま」「おかげさま」「おかげさま」と口に唱えて外に出た。朝日を探して「おかげさま」。月はどこかと「おかげさま」。「おかげさま」。「おかげさま」がいろいろ見えてくる。

◆例えば、お堂を支える柱がある。その柱の裏側もその柱を支えている土台も見えない。このお堂を建立しようと集まった方々、先先代の住職も見えない。しかし、今から100年ほど前のその場所で記念写真が残っている。晴れやかな写真お顔がある。それがお堂の「おかげさま」。

◆「おかげさま」の一言で、忘れていた様々なことは蘇る。導かれる心もちである。今につながるすべてのもの。父と母・父の父と父の母。織りなす糸とはうまく言ったものだが。それらがなければ今がない。それら全てへ「おかげさま」。「おかげ」とは、かくれて見えていないもの。だから、そこまで心をもっていかないとなかなか見えないし、感じない。

◆朝の散歩で「おかげさま」と唱えるだけで自分の周りにある「おかげさま」が動き出す。

◆瀬戸内寂聴さんは、昔は挨拶がわりに「おかげさま」だったという。「おかげさま」とは何かをしてもらったからいう感謝のことばだけではないのだ。

◆忘れていた「おかげさま」を取り戻す朝の散歩はどうだろう。

◆いつもニコニコ、一筆啓上付箋写経。

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