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耕田院の日常(369回目)山形県羽前大山駅

戦争語彙集

投稿日:2024年02月03日(土)
輪橋山徒然話 2024-2-3. 戦争語彙集

◆「戦争語彙集」という本が出版されていた。

「わたしの家も、この街も、置いていけばゴミになるの?」

はっとするコピーではないか。

◆著者はオスタップ・スリヴィンスキーさん。ウクライナを代表する詩人だ。その詩人が、避難者の証言を聴き取り、77の単語と物語で構成した文芸ドキュメントである。この作品は、ロバート キャンベルさん(早稲田大学特命教授)が現地を訪ねた記録とともに、自ら翻訳している。    (岩波書店 2023-12-22出版)

◆私の住むこの辺りでは、おばあちゃんのお茶飲み話は、いつものメンバーで、いつもの時間、いつものの場所で。そして、そこでは、ゆっくりとやさしい時間が流れている。おばあちゃんを包むイメージだ。

◆ウクライナでもやはり同じように「おばあちゃん」へ、似たようなイメージが共有されていたはずだった。しかし、このイメージは戦争によって一変したという。生生しい証言がならぶ。

◆「おばあちゃん」ユーリー ハルキウ在住の人の証言だ。

「おばあちゃん」

向かい側の建物だった二人のおばあちゃんのアパートは破壊されました。けれど、他人と のところには行きたくないと言って、他所に移ることを渋っていました。

そんなわけで、おばあちゃんたちは日がな一日玄関前のベンチに座っていました。で、そこで、破片に当たって死んでしまいました。

砲弾が降り注ぐ合間を縫って、わたしたちは中庭に穴を掘り、二人を葬りました。

◆次の証言は「猫」。オレーナステパネンコ ブチャ在住さん

場所は、虐殺が起きたブチャの町。おばあさんが猫の入ったバッグを置いて逃げるよう説得されている。オレーナステパネンコさん自身もブチャに猫を置き去りにしたことを後悔していた。

「猫」

そのおばあさん、バッグをぎゅっと抱え込んだままずっと泣きじゃくっていました。
ところが団地の出口付近で足を止め、芝生の上にバッグをそっと置きました。

立派な白い猫は恐怖心でどうすることもできず、目をきょろきょろし始めました。

いっそう激しく泣くおばあさんを、赤いパンツの女性はぐいぐい引っ張っていきました。

◆詩人が注目したのが言葉の意味が変化だ。

◆「おばあちゃん」は、あたたかい、ひなたにいる人ではなく、自分を貫き逃げることを拒否して死んだ人であり、「猫」は「戦場に見捨てた猫=後悔」に変化していたのだ。

◆詩人が見つけたのは、その変化した言葉に蓋をして、悲しみを隠していたのでは救われないということだ。前に進めないのだ。

◆「戦争語彙集」の役割は、そこにあるという。それはいったいどのようなことだろう

◆先ほどのオレーナ・ステパネンコさんは、戦争が続くウクライナで今、「戦争語彙集」が多くの人の心を捉える役割をしているという。その理由を次のように語っている。

「自分の体験はほとんど話してきませんでした。私よりもっと恐ろしくて大変な思いをしている人もいるからです。オスタップさんは、わたしを救ってくれました。それまではずっと思い出しながら心が痛んでいて、戸惑いの中で過ごしていたんです。でも言葉にすることで気持ちが整理されて、苦しみが少し和らいでいきました。私たちは痛みとともに生きていくしかありません。この痛みは、私が生きている証拠。亡くなった人を覚えている証拠です」
(NHKクローズアップ現代 2023-8-23 放送 より)

◆辛いことでも話すことが大事なのだ。なぜならそれが生きている証拠なのだという.あえて戦争によって変わった語彙を手がかりに、「こころ」を共有していこうとするその過酷さと強さに心か震えた。

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耕田院(山形県)

すてき

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