「一生そばにいるから　一生そばにいて」

◆強い雨だ。車で移動中にラジオをつけた。

◆さっきまでお寺には一回りほど先輩のご夫婦が見えられていた。いつもながら仲がよろしくて羨ましいと思いながら話を聞いた。海外勤務も長かったご夫妻だ。「俺とお前、どちらかが必ず先に逝ってしまうことになるなぁ」先輩の言葉が耳に残る。

◆ワイパーの動きと共に一定のリズムが生まれ、その間隙から『セイ・ユー セイ・ミー』が聴こえてくる。

◆「去年ご主人を亡くされたということなんですね。なんか、文章が優しくて、さらりとしていて、こうつらいとか悲しいとかっていう言葉を使ってないからこそ、本当にあのそういう思いがね、まだおありになるのかなって思ったりして、しんみりしてきましたね。愛に溢れた優しい曲でした。」

◆あれ、この声は、スバっとよく切れる黒川伊保子さんではないか。

◆どうもリクエストの時間らしい。もうすぐ12時。金曜日ということで今週最後の曲とか。

◆アナウンサーが進行する。

◆さあ。ではもう一曲ご紹介しましょうか。お願いします。

◆ええ、続いてはこちらの方からいただきました。63歳ええ、男性の方ですね。ラジオネーム「一生そばにいるから」さんからです。

(黒川伊保子さんが読み始めた)

◆現在自宅でリハビリ生活の毎日です。一年前血液の癌を発症し、6回の抗がん剤治療を行ない、今は日常生活を取り戻しました。

◆月に一回程度副作用の「ゆり戻し」があります。そんな時、妻は伏せる私のそばに寄り添ってくれます。

(黒川伊保子さん少しあやしくなってきた)

◆両親、家族は全て妻に任せ、自分の時間をめいっぱい使ってきた私。先日夜中に気づくと手を握り眠る妻が隣にいました。有難くて申し訳なくて涙が流れました。

◆当たり前ではない妻の優しさや大きな支えに、今頃気づくなんて愚かで情けないことですね 。

さらに続く。

◆NHKの歌番組で聞いたこの曲がずっと心に残るんです。今の自分の心情そのままだから。
これからは妻との何気ない日常を大切に過ごしたいそんな気持ちをのせてリクエストします。

菅田将暉「虹」

◆曲が流れる。スタジオでは号泣しているのだろうかと思いながら聞いた。いい歌だ。特に2番がいい。

ママの優しさとパパの泣き虫は
まるで僕らのようでさ　未来が愛しい

--略-

家族や友達のこと　こんな僕のこと
いつも大事に笑うから　泣けてくるんだよ
何にもなかった空に　ぽつんと輝いていた
「ありがとう」に代わる言葉　ずっと探していたんだ

一生そばにいるから　一生そばにいて
一生離れないように　一生懸命に

--略-

◆「ありがとう」に「ありがとう」と返すだけでは勿体ないと思ったのだろう。「ありがとう」に何かもう一つ気持ちを込めたいと思ったのだろう。何だかわかる気がする。だから、明るい明日の約束もふっつけて、選んだ言葉が、「一生そばにいるから　一生そばにいて」なのだと思った。

◆言葉は、時には人を傷つける。反対に心を温かくもするし、なぐさめもするし、励ます。言葉の力を「言霊」ともいう。

◆瀬戸内寂聴さんは

「言霊」という言葉がありますが、良い言葉を発すると良いことを呼ぶというのは本当です

◆「一生そばにいるから　一生そばにいて」は、この夫婦の未来を照らす最強の言霊になるだろうと思った。

◆さて、安全運転のお供であるラジオが運転手の目を潤ませてはいけない。
黒川伊保子さん。ルール違反ですよー。

◆いつもニコニコ、一筆啓上付箋写経。
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