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耕田院の日常(215回目)山形県羽前大山駅

寅さんの妹 さくらの徳

投稿日:2023年03月12日(日)
「よき人の香りは、風に逆らいつつもいく」。法句経にある「徳」についての教えだ。

◆昔、新宿のコマ劇場の地下一階に「Theatre Apple」という劇場があっと思う。東京の恩人から「ひばりちゃん」と「ミュージカル」どっちがいいと言われて、学生の私は、迷わず「Theatre Apple」を選んだ。当時できたばかりの、たぶん今はもうない「Theatre Apple」。

◆スポットライトの合図で、「コツ」「コツ」「コツ」とハイヒールの音。真っ赤なドレスのご婦人が舞台の袖から中央に。おもむろに、正面を向き、ゆっくりと観客の視線を確かめ、脚の長いスツールに腰掛ける。そして、スリットの入ったスカートでゆっくり足を組む。

◆客席から「ふーっと」ため息。視線も心もわし掴みにされた。これがスターだと思った。彼女の名前は「倍賞千恵子」。「寅さんのさくら」である。私にとっては「寅さん」を観ようとは思わないまだ若い頃。凛としたミュージカル女優倍賞智恵子さんが先だった。

◆倍賞千恵子さんの代名詞「さくら」は、空気の如くある。しかし、物語の舞台回しとして、さまざまな感情を運んでくる。

◆店に「おばちゃん↑」とはいってくるだけで、あたたかい気持ちになるし、「おにいちゃん↓」と下を向いていう時は、別れが近いことを予感させた。

◆マドンナとの初対面では「いつも兄がお世話になりまして」から始まり、身内として受け入れていく。我々観客は、また切ない別れが準備されていることを知りながら、いや、そんなことは「すっかり」忘れて、引き込まれる。

◆「おにいちゃん↑」「おにいちゃん↓」。「わかる、わかる」「ほっとする」そんな気持ちにさせるのは、もちろん女優の力量であるが、それは倍賞千恵子さんの身に纏う「さくらの徳」でもあると思っている。

◆「さくらの徳」とは、「豊かな人間性の結晶」なのである。どんなことがあろうとも、家族を支え、兄を慕い、まっとうに生きること。長いシリーズの中で積み上げてきた「さくらの人間性」そのものなのである。それは、「昭和的」で古いと言われようが普遍的なものである。そして、「豊かな人間性の結晶」とは、仏の心そのものであるとも言える。

◆法句経54には、仏の「徳」についてある。

華の香りは
風に逆らっては行かず、
よき人の香りは、
風に逆らいつつもいく   (法句経54)

◆風に逆らいつつもいく「香り」が「徳」なのだ。よき人とは仏のことである。

◆誰しもがお持ちの「仏の種」を心の真ん中に置き、「まっとう」に生きれば、それは、やがて「香り」のように身にまとう「徳」となる。そして、自分ばかりかまわりも幸せにする。「寅次郎の妹さくら」のように。

今日も一日オンニコニコで
耕田院(山形県)

すてき

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