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耕田院の日常(81回目)山形県羽前大山駅

「マスクをはずして和顔施」

投稿日:2022年10月20日(木)
◆「裏切り」というタイトルの絵を見た時には「笑顔」をつくり、「春」とか「ダンス」の絵を見たら「しかめっ面」をする。つまり、普通の感情と全くま逆の表情をするのだが、この表情が感情に影響するか調べた実験がある。

◆「今の気分は」と尋ねれると、「裏切り」の絵を見て笑顔を作った時は、「ハッピーな気持ちになる」と答え、「しかめっ面」をした方は怒りの感情が湧いてくると答えたという。 (クラーク大学 サイモン・シェネイル/ 内藤誼人「がんばらない生き方大全」より)

◆そして、もう一つ驚いたことに、その「ハッピーな気分」は、しばらく続くという。つまりは、作り笑いでも「ハッピーな気分になれ、しかも持続する」ということなのだ。

◆これこそがバイアス中のバイアスだ。たとえインチキな笑顔でも、そのような表情をしていれば、快楽のトーパミンが分泌し始めるのだということだ。作り笑顔は、周りの人だけではなく、自分の脳も騙すのだ。驚いた。

◆作り笑顔さえこのような効果を発揮する。心の底から「自分は運がいい」といつも思っていた男がいるのだが、彼の運命はどうなっただろうか。実は彼、波瀾万丈の人生、半端でない上下の波を見事に泳ぎきっていた。

◆その人の名は高橋是清という。この人は一生「自分はツイてる」「自分は運がいい」と思い込んでいた。

◆まず、その生涯で目を引くのは、幕府御用絵師の子として生まれ、仙台藩の足軽。高橋家へ養子に出されるのだが、幼い頃よりコロコロとして愛らしかった様子が伊達家の奥方に気に入られる。そのあと殿様からも…、それが、米国留学につながったという。是清14歳。留学中、米国で奴隷に売り飛ばされるなどということがありながらも、なんとか帰国する。

◆帰国後は、帰国後は大学南校(現在の東京大学)で英語の教員になるものの、放蕩の果てに失職。一時は芸者の付き人に身を落としたり、畜産業や相場、南米ペルーの鉱山経営に失敗したりと、なんとも、波瀾万丈だ。その後は大蔵大臣、総理大臣となった。「だるまさん」と呼ばれた通りの風貌と七転び八起きの人生だ。そして、最期は「2・26事件」で、陸軍青年将校の凶弾に倒れる。

◆その人生の中で最も力を発揮したのは、イギリスでの日露戦争の資金調達だ。もしも、資金調達に失敗すれば、戦争に負けることになる局面だ。このとき1000万ポンド必要なところ、イギリスからは500万ポンドしか引き出せなかったという。しかし、是清は「自分はツイてる」「自分は運がいい」と思っているので「なんとかなる」と思っていた。結局はその通りになる。たまたま、パーティで是清の隣にすわった銀行家がユダヤ人の反ロシア、なんと残りの全ての資金提供を申し出たと言う。一発大逆転だ。

◆数々の試練を「自分はツイてる」「自分は運がいい」と乗り越えてきた男の勝利である。それは、日本の勝利でもあった。めげていたり、怯んでいたらこの幸運はなかったろう。

◆さて、たとえ「作り笑い」でも、その笑顔は周りにプラスの感情を運び、「しかめっ面」はマイナスの感情を伝えてしまう。「なんとかなる」と思っていれば天は見捨てない。とすれば、マスクを外す今こそ、笑顔を思い出そう。

◆瀬戸内寂聴さんは、口角を上げての和顔施をお勧めている。和顔施とは、笑顔のバトンタッチでもある。「物をあげる“物施”や、人に親切にする“心施”というお布施もありますが、なかなかできませんね。でも和顔施ぐらいはできるわよ。人に会ったらにっこりすればいいんですからね」の和顔施である。和顔施で、この国に立ち込めている笑顔のない3年間の閉塞感を吹き払うのだ。
耕田院(山形県)

すてき

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