慶應から修行へ 太田住職のお寺、そして仏教への想い

 早稲田大学からほど近い、大龍寺の住職の太田さんにお話を伺いました。
 慶應大学から修行の道に進み、コピーライターの教室で学ぶなど、少し変わった経歴の太田さん。お寺をもっと身近に感じてほしい、という想いを聞いてきました。



慶應から修行へ 自分のルーツに気づいた師匠の教え


ー太田さんはお寺を継ぐか迷った時期があったと聞いています。
 どんな学生時代を過ごしていたんですか?


 檀家さんはね、もう完全に期待していましたね。「俺の葬式は坊やがやってくれるんだろ?」みたいな。
 でも私の両親は「お坊さんにはなりたかったら目指せばいい」という方針でした。もし、お坊さんになるとしても、小さい頃から仏教系の学校に通い続けるのではなく、いろいろな経験を積んで欲しいという考えでした。

 実は、私は慶応の経済学部に通っていました。お寺に生まれても、早稲田や慶應に行く方、少なくないんですよ。

ーいつ頃からお寺を継ごうという想いがありましたか?

 お寺を継ぐことは、両親から強制されなかったからか反発もしなかったんです。ただ、ずっと視野には入っていました。その一方で、別の選択肢はなんなのだろうとも考えていました。
 大学生の時は学校の先生を目指していて、中学・高校の教員免許も取りました。大学4年生の時には、そのまま先生になってもいいとも思っていました。

 実はお寺って、世襲じゃないんです。宗派によっては、少なくとも学歴と修行歴を備えて資格をいただかないと、お寺を継げないんですね。そんなこともあって、卒業後はまず福井県の永平寺で修行をすることにしました。ただ、その時はまだお坊さん一本でやっていく決心はしていませんでした


取材を行った、お寺の「ふらっとスペース」



ーお坊さんになる決心より、修行が先だったんですね。

 そうなんです。行ってみて自分のことを考える機会や気づきもあり、「あ、お坊さんいいかもしれない」と思いました。これでやっていこうと決心したのは修行を始めて4ヶ月後でした

ー4ヶ月後に何かあったのですか?

 実は、修行を続けられなくなりそうになったんです。
 というのも、師匠である父ががんで入院しました。道場には誰もが、「親が死んでも帰れない」という心構えで修行に来ています
 でも、本当に師匠に万が一のことがあれば、様々な手続きや儀式がある、弟子としての当座の勤めもある、残された家族を守る必要もある。なのに自分一人が安穏と修行を続けられるかというと、やっぱりそうは言ってられないですよね。いつ帰らされるかわからないという状況はすぐに理解できました。

 そうすると、修行への気持ちが変わりました。15分で終わる法要でも、もしかしたら永平寺で最後のお勤めかもしれないと思うと、取り組み方が変わるんです。そして法要が終わると、まだ師匠から連絡が来ていなくて、安心する。そんな日々が続きました。

 そういった修行の中で、永平寺で教わっていることは、師匠の言っていることと同じだと気づきました。たとえば師匠は「字は、汚くてもいいから丁寧に書きなさい」と教えてくれました。丁寧に字を書くことと、一回の修行に心を込める姿勢は同じなんですね。
 その時、私が大切に思っている価値観は、自然と師匠から受け継いでいたものだったんだな、という思いに至りました。そうなると、「自分ってお坊さんになるために生まれて来たのかもしれない」と思うようになりました。私自身、それでもう納得しちゃったんです。


都心にひっそりとたたずむ本堂



新宿西口のロータリーで、道行く人々に伝えたい


ーコピーライターの教室に通われたということですが、どうして通おうと思ったのでしょうか。

 私の知り合いのお坊さんの先輩に、その教室に通っていた方がいました。
 その先輩から、「お寺って教えを伝えるっていう部分は言うなれば、情報産業だよね」と聞きました。つまり、お寺がなにを提供しているかというと、「教え」という情報なんです。教えを伝えて、みなさんに受け止めてもらうのがお寺の役割だと言うのです。
 先輩はコピーライティングのノウハウを活かして、教えを伝えていました。

ーそれまでは、どうやって教えを伝えていたんですか?

 日々の人との接し方、生き方もそうなんですが、伝統的には、「法話」という形がオーソドックスです。私もその伝統にのっとって、宗派が設立していた養成所に通い、布教法話のイロハを教わっていました。
 そこである時、「どんなシチュエーションでもいいとしたら、あなたはどこで教えを伝えたいですか」と聞かれました。僕はその時、「新宿西口のロータリーの前で、ワンボックスの上に乗って話をします」と答えたんです。

ー新宿西口というと、選挙活動などが思い浮かびます。
 お坊さんが教えを伝えるのとは、正反対の印象です。


 すごいじゃないですか、あの熱意。心の中のものがそのまま出ていると思うんです。
 それまで学んでいた伝え方は、話す時間や、スピードなどを、あらかじめ自分で設定していました。きれいに整っているけれども、そつがない。私は、10分間の起承転結を聞いて最後に納得してもらう話も素晴らしいけれど、通りすがりの人が横切る間に聞いても、心動かしてもらえる話をしたいと思っていました。

 その時の想いが、先輩のコピーライティングの話とつながったんです。「お寺で宣伝って、お墓を売りたいのかな?」としか理解していなかったのが、「振り向いてもらうことからはじめる広告コピーのどこに力があるのか、それを学ぶのも」と。そう思い立って通い始めたんです。

 ただ、一番大切なのはテクニックではないんです。伝えることは「自分の器からしか出て来ない」ということは宗派の養成所でも、コピーの教室でも変わりませんでした。法に出会う、といいますが、自分自身が本当に教えに納得して、経験から感じたことだからこそ伝わるんです。気持ちで聞いてもらうものなんですね。



「境内の散策はご自由にどうぞ」


ー今のお寺って、どんな場所なんでしょう。ちょっと入りづらいなって思うんです。

 そう思っている方多いんですよ。
 外部での講演などを通じて、「お寺に勝手に入ったら怒られるんじゃないか」と思っている人が多いんだなと気づきました。

 私はお寺や神社って人が入ってきてなんぼだと思っているんです。お墓参りだったり、用が特にない人が入ってきてもいいと思うんですね。大龍寺では入り口に「境内の散策はご自由にどうぞ」って書いてあります。

ー大龍寺は一般の方向けの坐禅会などでもで親しまれていますよね。

 写経をやりたい人も、お経を読みたい人も、坐禅をしたいっていう人も、それぞれたくさんいます。そう言ったニーズがあるのであれば、私でよければ窓口になりたいという想いがあります。

 実は、月一回開催している坐禅会を始めたのも、コピーライターの教室がきっかけなんです。
 教室のメンバーの一人に「坐禅会とかできちゃうの?」と聞かれて、何人かで坐禅をしたんです。坐禅なんてもの珍しいので、みなさんSNSに書くじゃないですか。そうすると、SNSを見た人から「坐禅会させてもらえませんか」と連絡が来るんです。いつの間にか、毎週入れ替わり立ち替わり坐禅会をすることに。こんなことなら毎月一回でも決まった日に坐禅会を開こうとなって、10年続いて今に至りました

 お寺はいつもとは違った、おごそかな気持ちになれるところです。たとえば、坐禅を組むことで、普段の考えから離れることができるように。ただ、おごそかな気持といってもあまり緊張しないで、気軽に来てもらえたらな、と思います。


坐禅会は本堂で、毎月第一土曜日に開かれています




 インタビューのあとは、坐禅をさせていただき、心身ともにお寺の良さを味わいました。
 お寺って、思っていたより行きやすい場所なんだなって気づいたあなた、大龍寺を訪れてみませんか。

※大龍寺で定例の坐禅会などに参加をされたい方は、下記に電話やメールをお願いします。

曹洞宗起雲山大龍寺

〒162ー0053 東京都新宿区原町2丁目62
TEL 03-3203-8394
FAX 03-3203-8396
メール nonin_kenko@ybb.ne.jp
ブログ たつのこ半畳記     http://blog.goo.ne.jp/kiun350
禅の教えを伝える曹洞宗の寺院です。
ご本尊さまは「釋迦牟尼佛(お釈迦さま)」、本山は「大本山永平寺(福井県)」と「大本山總持寺(神奈川県)」です。
菩提寺(信仰を寄せている寺院、亡き方のご供養をも依頼する特定の寺院)をお持ちでない方や、当山以外に菩提寺のある方でも、ご興味があれば、折々の行事に参列していただくことは出来ます。仏事のご相談などもどうぞ。

「ホトカミ」とは?

みんなでつくる神社お寺の投稿サイトです。
・登録から投稿まで3分
・画像無しでも大丈夫
・日付も入力できる
(過去のお参りの記録の整理にも)

歴史に詳しい必要はありません。
みなさんの個人的な思い出や、お参りの記録の投稿で日本中の神社お寺を応援しよう!