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良きパートナーとの出会いがもたらした神社と地域の絆【群馬・山名八幡宮インタビュー】

最終更新:2019年01月17日(木)
公開:2019年01月17日(木)

はじめに

日本の人口減少・高齢化は、特に地方において顕著です。
そのため、地方に鎮座する神社の運営は、今後さらに状況が厳しくなっていくことは明白です。
神社は改めて、その存在意義を問われている時代といえるでしょう。
そこに“答え”を出すことができる神社は地域との関係性をさらに強め、
そうでない神社はますます寂れていくという二極化がすすんでいます。

私は神社界の活性化に貢献したいとの想いから、そのような“答え”を求めてたくさんの神主さん、関係者の方々にお話を聞いてまいりましたが、
今回ご紹介する群馬県・山名八幡宮のように、大変素晴らしい取り組みによって“答え”を導かれた神社があります。

この記事の書き手
神職/中小企業診断士

石井里幸


神職資格を持つ中小企業診断士。経営コンサルタントとして中小企業だけでなく神社に対しても支援をおこなう。また自らも神職としてときおり神社奉仕もしている。趣味はクラシックギターと生け花。

    目次

  1. はじめに
  2. さまざまな職種のチカラを集結し「グッドデザイン賞」を獲得
  3. まずは地域が持つ課題に耳を傾け、神社としてできることを探る
  4. よきパートナーとの出会い
  5. 神社は日本文化の発信拠点。自分の国を誇れる若者を増やしたい
  6. まずは収益事業を立ち上げて人を集める
  7. 神社は“楽しい場所”だと認識してもらうことから
  8. 最後に

さまざまな職種のチカラを集結し「グッドデザイン賞」を獲得

群馬県高崎市に鎮座する山名八幡宮(やまなはちまんぐう)は、室町時代末期(西暦1175年頃)の創建とされ、安産・子育ての神社として信仰を集めています。
宮司は高崎市の市議会議員をお勤めになられたこともある高井俊一郎氏。
2016年、その高井宮司が中心となって「山名八幡宮リニューアル・プロジェクト」と称する取り組みが始まりました。
そして翌2017年には「地域・コミュニティづくり/社会貢献活動」の分類においてグッドデザイン賞を受賞されています。
神社から広がる地域再生 安産子育ての宮「山名八幡宮」地域の再生

このプロジェクトは高井宮司のもとクリエイター、ディレクター、マーケッターといった、本来なら神社とは縁遠い職種の方々が集結。
明らかに一般的な神社とは異なる方法で、次のような改革が行われています。

⚫社殿・神楽殿・授与所の内装刷新
キッズ・マタニティカフェ「ミコカフェ」のオープン
天然酵母パン「ピッコリーノ」のオープン
⚫「みんなで作るあそび場プロジェクト
⚫ホームページの刷新
⚫神社ロゴの作製(社紋は従来の三巴)
⚫お守りなどの授与品の刷新





すごい量の改革です。
それにしても、境内という神域の中にカフェやパン屋を実現させるなど、
いったいどうやって氏子総代や氏子さん方の理解を得たのでしょう?
というのは、氏子総代は一般的にかなりのご高齢でいらっしゃることがほとんどです。
そういった方々は、
「神社という荘厳さが求められる場所に営利目的のお店をだすなんてとんでもない!」
と、反対しそうなんですが・・・

「ええい、直接聞きに行こうじゃないか!」
ということになり今回の取材が実現することになりました。

さて、「山名八幡宮」でネット検索すると、高井宮司のお名前が載った記事が数多くヒットしますが、
今回取材に応じていただいたのは山口和也(やまぐちかずや)さん。同神社の神主さんの一人です。
この山口さん、大変ユニークなキャリアの持ち主で、お話がとにかく面白かった!
そんな山口さんに「山名八幡宮リニューアル・プロジェクト」についてお聞きしました。

まずは地域が持つ課題に耳を傾け、神社としてできることを探る

――「山名八幡宮リニューアル・プロジェクト」での取り組みについて教えてください。

まず取り組んだことは「ミコカフェ」事業でした。
この地域に限ったことではありませんが、お母さんがたは、
お母さん同士の交流がなく孤独を感じているという方も多い。
そこで「神社として何かできないだろうか」と考えたときに、
地域のお母さんがたを集めてワークショップを開催するのはどうかという話になりました。
そして月に一度のペースでお母さん方を集め、それぞれの子供を連れてきて、
本の読みきかせ、ベビーダンス、ベビーマッサージ教室などを開催するようになりました。
これを2年ほど続けているうちに、やっぱり常設の拠りどころがあったほうがいいよね、という話になったのです。
そうして誕生したのが「ミコカフェ」です。
添加物を使わない身体に優しいメニューを提供するだけでなく、ベビー用品や、マタニティ・グッズの販売も行っています。
平日のみの営業ですが、それはスタッフとお客様の多くが地域のお母さんで、復職の場として活用してもらいたいからです。
そうすると夜の時間が空いてしまうので、夜はNPO法人が運営する学習塾に貸出して英会話教室をやっていたりします。


――まず地域の悩みに耳を傾け、神社として解決できる道を考えたということですね。

宮司の高井は高崎市の市議会議員を務めておりましたので、おのずと地域の声をよく聞く立場にあったのです。
高井ともよく話すのですが、我々が感じていることは神社というものが日本人の心からどんどん離れてしまっているのではないかということです。
多くの人にとって神社は年に一度行くか行かないか。それも初詣や七五三といったハレの日(注)にだけ行くということに危機感を持っています。
「神社を日常の場所にしていきたい」
私たちはそう考えるようになったのです。
(注)ハレの日とは、年中行事や人生儀礼など、非日常的で特別な日のこと。

よきパートナーとの出会い

――高井宮司との出会いは?

実は私は社家(神主の家系)ではないんです。
大学卒業後は都内の広告代理店に入社しましたが、仕事にやりがいを感じることができず、
すぐに脱サラし、都内でバーを経営することにしたのです。
また、同時に、「シブヤ大学」というNPO法人での活動をはじめました。
そこで、「群馬に面白い人がいるから会ってみない?」ということで紹介されたのが高井でした。
我々は地元が同じ群馬ということもあり、「いつか一緒に地元を盛り上げたいね」などと、すっかり意気投合しました。

まもなく経営していたバーの経営権を友人に譲りました。地元に帰る前にワーキングホリデーに行きたかったからです。
実は、学生時代にバックパッカーで海外(主にアジア)を見て回った経験から、発展途上国を支援する国際協力に興味がありました。
もともとサラリーマン時代にJICAやJETROなどの国際協力機関への転職活動をしていたのですが、英語が全くできなかったため採用の土台にも上がれなかったという悔しい経験をしました。
「英語ができない」という理由だけで本来行きたかった道を諦めたくない・・・
これがワーキングホリデーへ行くことを決意した理由です。

ワーキングホリデーを終えて数年ぶりに帰国したとき、久しぶりに高井と会う機会があり、地元や神社がおかれている状況を聞きました。
「高井と一緒に地元を盛り上げる時がきた」
そう思いました。

神社は日本文化の発信拠点。自分の国を誇れる若者を増やしたい

――高井宮司と再開し、山名八幡宮で奉職することになったのですね。

ワーキングホリデーで海外生活をしていたとき、現地で出会う日本人の多く(特にワーキングホリデーで来ている若い日本人)が日本の文化をよく知らず、
そればかりか日本のことを悪く言う傾向があることに違和感を覚えていました。
その一方で現地の外国人は日本のことに大変興味を持ってくれる。
興味を持ってくれたのに、ネガティブな情報を伝えてしまうことに大変残念な思いを抱いていました。

これは個人的な意見ですが、そもそもワーキングホリデーで海外に暮らす若い日本人は、
日本の社会になじめなかったがゆえに、海外にチャンスを求める人が少なくないのではないでしょうか。
だから彼らは日本のことを知らずに、せっかく興味をもってくれた外国人にたいして、日本に対して抱いている自身のネガティブなイメージを伝えてしまうのかなと。

自国の文化を充分に理解せずネガティブな情報を発信してしまう日本人に、どうにかならないかと常々感じていました。
そこで、私はそうなるまいと海外で暮らしながら日本の文化についてかなり勉強したのです。
勉強していく過程で、日本文化の発信拠点である神社を見直すことこそ、最も効率が良いのではと考えるに至りました。
あるとき、高井にこんな想いをぶつけてみました。

「本来、海外で暮らす日本人は、外国人に対してもっと日本のすばらしさを伝えるべき役割を担っているはず。
彼らが自国の文化に誇りを持ち、ポジティブな情報を外国人に伝えるようになるにはどうしたらよいか。
それは、神社がもっと地域の方々に必要とされる場所になっていくことではないか。
そうすることで若者に気づきを与え、自分の国を誇れる日本人を増やすことができるのではないか。」

高井も同じようなことを考えていたようで、
「それなら一緒にやらないか」
と言ってくれたのです。これが山名八幡宮の職員として勤務することになったきっかけです。
職員として勤務していく中で「神社とは何か。神道とは何か」を考えるようになり、完全に興味を持ってしまい、神職資格を取る許可をいただいたのです。
今でこそ神主になりましたが、わざわざ改宗届も出しましたよ(笑)

まずは収益事業を立ち上げて人を集める

――山口さんと高井宮司がタッグを組んだことで、神社のリニューアル・プロジェクトがス タートしたのですね。

最初に立ち上げたのがミコカフェ事業です。
神社は宗教法人なので、その枠組みではできない、あるいはやりにくいことがたくさんあります。
たとえば収益事業もやることはできますが、神社が営利目的の事業をおこなうということに理解を示さない人も多い。
そこで、私を代表として新たに合同会社を立ち上げ、そこで収益事業を回そうということになったのです。
神社の周りにビジネスをつくり、“収益事業で人を集める”というモデルを構築しました。
近くの民家を借り、リノベーションをして貸し出すという不動産事業も行ったりしました。

――神社でパン屋を経営するというのも聞いたことがなく、大変インパクトがあります。

「神社を日常の場所に」を我々のコンセプトと考えたときに、当初挙がったのは「おむすび屋はどうか」ということだったんです。
でもおむすびは日持ちしないので「それならパンはどうか」ということになったのです。
パンは日常のものだし、ミコカフェをやっている関係上、「食育」というキーワードがあることから天然酵母で、かつ国産小麦でつくったパン屋を探すことにしました。
そうして探しているうちに伊藤ご夫妻(幹雄さん、けい子さんともにパン職人)が候補に挙がりました。

当時、伊藤ご夫妻は東京でパン教室を営まれており、全国にお弟子さんがたくさんいました。
さっそくお伺いして、どなたかお弟子さんを紹介してもらおうとしたのですが、
話を聞いているうちに、なんと幹雄さんが高崎出身ということがわかりました。
「これもご縁」ということで、師匠自ら高崎市に凱旋いただき、ピッコリーノ“山名八幡宮店”がオープンすることになったのです。

神社は“楽しい場所”だと認識してもらうことから

――境内の中でオープンするにあたり、制約や障害はありませんでしたか?

たしかに境内の中ですが、ミコカフェやピッコリーノの土地は宗教法人としての所有ではなかったので、まったく問題はありませんでした。
我々の活動は社会問題の解決策として神社を中心としたコミュニティづくりをやっていると氏子にも説明し、共感してくれています。

その他の活動としては、月に一度、近隣の子供たちを集めて「あそび場プロジェクト」というものをやっています。
これは神社内にある空き地を利用し、公園でもなく学校でもないみんなの遊び場をみんなで作っていこうというものです。


地域にもともとある公園は、たとえば穴を掘ってはいけないとか、ボール遊び禁止といった制約事項が多く、子供が遊びづらい環境になってきているのです。
昔は神社の境内は子供の遊び場だったのです。どちらかというと現代では神社で遊んではいけませんよ、みたいな教育がされているのではないかと思うのです。
そもそも子供たちの声を聴ける場所がないよね、ということで、神社が子供の声を聞き、子供がもっとのびのびと遊べる場所を作りたい
それがこのプロジェクトのゴールです。

このプロジェクトでは、当日の運営に関してスタッフはあまり関与せず、基本的に参加者にまかせるというスタンスを取りました。
参加する家族が能動的に行動し、すすめてもらっています。
たとえば公園のすぐそばには線路が通っており、危なくないように柵を作るとか、畑を耕し自分たちで野菜を栽培し、とれたものを自分たちでバーベキューする、といった具合です。


――まず神社を楽しい場として認識してもらうことが大事ということですね。

その通りです。
ミコカフェにきてくれる子育て中のお母さん方、ピッコリーノにパンを日常的に買いに来てくれる人、そして遊びにきてくれる近所の子供たち。
このように、神社に来てくれる人の数がずいぶん増えました

最後に

山口さんのような社家(神主さんの家系)ではない人物が神社の活性化に大きく貢献するといった事例は、実は珍しいことではありません。
外部の人間だからこそ、神社の機能を客観的にみることができます。
また、多くの神主さんが保持しえないスキルや知見を持っていたからこそ、活性化に繋がる活躍ができたのではないでしょうか。

人口減少・高齢化は今後も加速し、特に地方の神社は何らかの対策なしには衰退するしかありません。
神社も受け身の姿勢では立ちいかない時代が、もうすでに到来しているのです。
これからの神社運営は内部の職員や神主さんだけで対策を講じようとせず、
積極的に外部の人間と交わり、良きパートナーと出会うことが求められるのかもしれません。

山名八幡宮はリニューアル・プロジェクトを通じて外部のチカラを積極的に採用した結果、
地域との絆を深めることに成功し、ひとつの「神社のあるべき姿」を提示してくれました。

今回の取材は、多くの神社関係者にとって励みとなる事例となるに違いありません。
山口さん、ありがとうございました!

安産と子育ての宮 「山名八幡宮」

〒370-1213
群馬県高崎市山名町 1581
TEL:027-346-1736
山名八幡宮|公式ページ
山名八幡宮|ホトカミ

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