テーマパークに学ぶ「五感で感じる」神社づくり【熱海 來宮神社 雨宮宮司インタビュー】

最終更新:2018年06月21日 公開:2018年06月02日
  

「変えていいものを変える」より、
「変えてはいけないものを残す」と考える方が、
柔軟に神社の新しい取り組みを進められることに気が付きました。
そう語ってくださったのは、静岡県熱海市にある來宮神社(きのみや)神社の雨宮盛克(あめみや もりかつ)宮司です。

日本には、古くから受け継がれてきた伝統がたくさんあります。
しかし、なかには時代に合わず、衰退しつつある文化もあります。

神社でコーヒーを提供する理由、夜の神社の暗いイメージを変える取り組み、境内が広くないからこその逆転の発想、テーマパークでの研修からの気づき、そして未来の神社の担い手へのメッセージなど、
雨宮宮司のお話には、時代に合わせて変化しながらも大切な伝統を未来に受け継いでいくヒントがたくさんありました。

このインタビューの聞き手
ホトカミ運営代表 / 出雲観光大使

吉田 亮


1990年岐阜生まれ。東京大学文学部卒。
在学中から「日本の文化や歴史を現代に生かし、未来に繋げたい」と神社ツアーや塾の運営など行う。
この記事の書き手
ホトカミライター

村上 太郎


神社お寺を知ってもらうため、100年後も読まれる記事を目指しています。毎朝の坐禅が日課。

    目次

  1. 「変えてはいけないものを残す」境内にカフェを作った発想の転換
  2. 「夜の神社の心地よさを伝えたい」肝試しに来たカップルから見えた神社の問題点
  3. 「神社に来てもらったときがチャンス」テーマパークに学ぶ神社のあり方
  4. 42歳で地元に再集結 お祭りがつくる世代を超えた結びつき
  5. 神道を志す人へ
  6. 目指すは「五感で感じる境内づくり」
  7. 最後に

「変えてはいけないものを残す」境内にカフェを作った発想の転換

來宮神社には、たくさんの方が訪れていて、にぎわいを感じました。お参りに来る方も10年前の5倍となり、そのうちの7割が若い女性だそうですね。どのように神社へお参りしてもらう工夫をしているのですか?

実は、10年前までは來宮神社の護持・運営が苦しい時期がありました。

このままではまずいということで、
40項目以上の新しい取り組みや改善をはじめ、お参りの方を増やしていこうとしました。

はじめは、新しい取り組みを進めていくにあたって、
「神社のどこを変えてしまっても文句を言われないだろうか?」と消極的な考え方をしていました。

しかしそのうち「変えていいものを変える」より、
「変えてはいけないものを残す」
と考える方が、
柔軟に神社の新しい取り組みを進められることに気が付きました。

神社は、神様のこと、神事のこと、伝統文化のこと
この3つを変えなければ、ほかを変えてもあまり問題がありません。

たとえば、來宮神社では「SOU(創)」というクスの木の香りのするアロマをカフェで販売しています。
「どうして神社でアロマ?」と思われるかもしれません。

しかし、アロマという技術のない昔は、お香を神様に捧げていました。
いい匂いを神様にささげるという意味では、根本は変わっていません。


また、來宮神社では境内にカフェがあります。
やはり「神社の境内でコーヒー?」と思われるかもしれません。
ですが、コーヒーはコーヒー豆から作られます。
豆は「魔(ま)を滅(め)す」といって節分祭でも、まかれるものです。
そう考えれば、神社の境内にカフェがあり、コーヒーを提供しても自然です。

変えてはいけない部分を大切にしていれば、神社でも新しいことに取り組む可能性はたくさんあります。

「夜の神社の心地よさを伝えたい」肝試しに来たカップルから見えた神社の問題点

こうして來宮神社では、コツコツと神社を良くしてきました。

神社を変えるために、最初に取り組んだ事業というのが、参道の整備工事です。

当時、私はまだ宮司になったばかり。
ジーパンとTシャツで境内の様子を見ていたので、
宮司だとは全く気づかれないこともありました。

そうするとお参りしている人のことを観察できるんですね。
観察していると、神社の問題点が見つかることがあります。

あるとき、高齢者の方が1センチもない参道の段差でつまづいて転んだことがありました。
1センチの段差は、僕らには問題ないけれども、高齢者にとっては問題です。

そのことが参道の整備を始めるきっかけになったのですね。

“the Kodama Forest Project”を始めたのも同じようなことからです。

あるとき、神社で肝試しをしているカップルがいました。

そもそも、神社はお化けがいるような場所ではありません。
それなのに、肝試しをするような怖いところだと思われていると知って、とてもがっかりしました。

夜の神社は昼と違って静けさに包まれています。
木の揺れる音がしたり、川のせせらぎの音がしたり、
ものすごく雰囲気がいいんですよ。

夜の神社のイメージを変えるためにも、なにかしたいという想いがありました。

そこで注目したのは神社の森です。
來宮神社には樹齢2000年のクスの御神木(ごしんぼく)(注1)があるように、樹木に対する崇敬があります。
また、神社の森には、木霊(こだま)といって、木の魂が宿ると考えらえていました。

この木霊をなんとか表現できないかと考えたことから、
“the Kodama Forest Project”は始まりました。

地元の方々にも相談したところ、神社の森をライトアップするアイデアが生まれました。

おかげさまで夜もお参りの方が増えてきました。

もちろん最初は「夜に神社にお参りするなんて」という意見の人もいました。
でも、大晦日には夜にお参りしますよね。
「どうして普段はいけないの?」と聞かれたら、なんとなくという理由しかありません。

それに、熱海は夜に男の人たちが飲みに行くところはありますが、女性のグループやカップルが行けるような場所が少ないです。
夜にどこに行くか悩んでいた観光客の方に、お参りしてもらえたらという想いもありました。

「神社に来てもらったときがチャンス」テーマパークに学ぶ神社のあり方

ほかに來宮神社ならではの工夫をしていることはありますか?

境内の整備をしていてネックに感じていたのは、境内が比較的狭いことです。
以前は、広大な境内を持っている神社をうらやましいなと思っていました。

しかし、來宮神社の境内の整備をしていくうちに、広くないからこそ、少ない資金でも、こだわった世界観を神社でつくれるのだ、ということに気づきました。
境内が広すぎれば、多額の投資をしても、どこが変わったのかを、お参りの方に気づいてもらえないかもしれません。
來宮神社ってすごく変わったよねと言われるのも、それは境内が狭かったからだと感じています。

また、神社にお参りしてもらうには、神社が常に変化することが大切です。

私は、テーマパークが好きで、職員を連れて研修に行くことがあります。

テーマパークに行った後には、
「テーマパークで感動したところ、残念だったところを共有しよう」
「テーマパークで気づいたことを、神社でどう生かせるのか」 という議題で会議をします。

テーマパークはたくさんの資金力があるので、一度に完璧なものを作れそうですよね。
でも、テーマパークは新しいアトラクションを少しずつ作ります。
そうすると新しいアトラクションに人が集まりますし、
もともとあったアトラクションも一緒に楽しんでもらえますよね。

神社もそれと同じことが言えると思っています。
神社で言えば、今期はここの参道を整備しようか、次にはここの摂社(せっしゃ)・末社(まっしゃ)(注2)をきれいにしようか、と少しずつ変えていくことです。

そうすれば常に人が集まってくれるような神社になると感じています。

テーマパークを参考に神社を考えているとは意外でした。これ以外にも、心がけていることはありますか?

たとえば、神社は営業ができませんよね。
「うちの神社は、とても効き目があるので来てください」って言えません。
それに神社には教義や教典がないですよね。

こうした理由で、神社は宣伝をすることが難しいんですね。
だから、神社に来てもらったときが最大のチャンスです。

一人一人が神社のよさを肌で感じてもらうことを大切にしています。

お参りに来た方が、神社で気持ちよくお祈りができたり、ゆっくりと休憩ができたり、
「この神社がすてきだなぁ」だと思ってくれたら成功です。

そう思った方が、大切な人とまたお参りに来てくださることで、ご縁が広がります。
そうすると次第に「あそこの神社はすごく気持ちがいいね」と評判が伝わります。

來宮神社も、人が人を呼んで、お参りの方が増えました。
そのためにも、神主さんや巫女さんがお参りする方のアシスト役となることが大切です。

神主も巫女も、決して偉くはないんですよ。
「なかとりもち」といって、神様とお参りの方の間を取り持つ役割なのです。

42歳で地元に再集結 お祭りがつくる世代を超えた結びつき

來宮神社といえば、やっぱり「こがし祭り」ですよね。お祭りを通して、地元との結びつきも大切にしている印象があります。

ここ來宮神社は縁結びの神様といわれていますが、お祭りを通じて世代を超えた人と人とのご縁を結んでもらいたいと考えています。
來宮神社のこがし祭りでは、子どもたちは山車(だし)(注3)に乗って、お父さんはみこしを担いで、おじいさんは神酒所(みきしょ)(注4)で留守番をして、とそれぞれの役割でお祭りに参加します。

そうすると、世代を超えてお祭りという共通の話題ができるじゃないですか。

同じように、お祭りを通して縁を結べば、地域同士もつながることができます。

また、伝説で來宮神社の五十猛(いそたける)の神様が海からやってきた際に、
「熱海の村民と、入り来たる旅人を守護しよう」と言いました。 神様が、熱海に住む人だけでなく、熱海に来る方もお守りすると言って下さった。

なので、観光の方々にもぜひお祭りに参加していただき、地域の人とのご縁を結んでもらえたらとも考えています。

家族でお祭りの話題ができるなんて素敵ですね。來宮神社のこがし祭では、特に御鳳輦(ごほうれん)という行事が有名だそうですね。

こがし祭りのなかで、神社のおみこしを中心に、300人以上で8キロに渡り行列を組む御鳳輦という行事があります。
地域の、厄年に当たる42歳の人たちは、おみこしをかつぐ担当としてチームを組みます。
この御鳳輦はもう100年以上続いている行事です。

熱海ではおみこしを担ぐ42歳になると、
「お前も今年が御鳳輦か。いよいよ一人前だな」
「やっと42歳になったのか、世に出る年だな」
って地域の方々が温かくお祝いしてくれるんです。

中学校を出たら地元の同級生とはバラバラになってしまいますよね。
熱海では、42歳になったときにもう一度集まって御鳳輦のおみこしをかつぎます。

中学を卒業してから20年近くたっていますから、いろんな人生をおのおの歩んできているので、それぞれ価値観も違うし、やり方も違います。

そうしたなかで、ひとつの目標を達成するっていうのはなかなか困難なのですけれども、
最終的にはみなさん、やってよかった、と感じてくれているようです。

御鳳輦も人とのご縁を結ぶひとつの大切なきっかけになっているのです。

神道を志す人へ

最近は神社の人材不足が叫ばれていると聞きました。そうしたなかで神社に奉仕する道を選んだ理由、神様に奉仕するやりがいを教えてください。

私は來宮神社の長男に生まれて、20代目の宮司となりました。

最初は神社を継ぐことに抵抗感もありましたが、
なにかのご縁があって神社の子どもとして生まれたからには、
生きた証として神社を継ぐ道に進むことが、神様とのご縁なのかな
と思っています。

実は、学校の先生もやりたいと思っていました。
学校には勤めずにこの道に進もうと決心がついたのが、大学三年くらいのときでした。

神社に奉仕してよかったと思うのは、神社に来る人には、悪い人がいないことですね。
それに、神様を信じている方には、人を好きな方が多いです。

神社に奉仕していれば、自然と人のことも好きになるし、なによりご縁を感じるようになると思います。

私はそうしたところにやりがいを感じてきました。

たしかに、私の周りの神社が好きな人もいい人ばかりです。しかし、時代の流れのなかで、神社の護持・運営が厳しくなっていますよね。

私は神道青年会という、40歳以下の神主の集まり(もしくは勉強会)の、全国ブロックの役員や東海ブロックの会長を務めていました。

そこでは悩んでいる若い神職の話をたくさん聞いてきました。

悩んでいることはみんなほとんど同じでしたね。
「神社にお参りに来る人が減っていて困っている」だとか。

そもそも神社は今、一般の方からは敷居が高いと思われていますね。

そこに危機感を感じないといけません。
神社がみなさんの生活に密着しきれていないということです。

それに今は、だいたい一人の宮司が、平均で10以上の神社を兼務しないと神社を守っていけない状態です。

僕は「一人で悩んでいても仕方ないから、氏子さんを巻き込んでいくことで突破口も開けるかもしれない」とアドバイスしてきました。

お祭りを通じてでも、行事を通じてでも、
地域の縁を大切にして、氏子さんや町の人と盛り上げていくのが 最初はいいんじゃないかなと思います。

目指すは「五感で感じる境内づくり」

最後に、來宮神社にお参りされる方たちへメッセージをお願いします。

來宮神社が目指しているのは「五感で感じる境内づくり」です。
見て、聞いて、食べて、嗅いで、触れて、
五感が気持ちよくなれるような、そんな境内を目指しています。

そして、鳥居を出るときには、元気になっていてほしい。
癒されて、前向きな気持ちになり、明日からがんばろうと活力が出る、
そんな神社を目指しています。

五感で感じる境内づくり、とてもすてきですね。貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

最後に

私自身、ホトカミを運営している代表として、伝統を守るとはどういうことか、何を変えて良いのか、何を変えてはいけないのか、100年後の人々にも価値あることは何だろうかと、
日々、問い続けながら運営しています。

そのなかで、雨宮宮司の「変えていいものを変える」より「変えてはいけないものを残す」という考え方は、とても参考になりました。
変えてはいけないものを未来に残せるように、ホトカミが少しでも神社やお寺の手助けになれば幸いです。

また今回は、ホトカミ運営メンバー全員で熱海へ行き、雨宮宮司にお話を伺わせていただきました。
熱海は温泉があり、海の幸も美味しく、出会った人々も温かく、豊かな時間を過ごすことができました。

雨宮宮司、そして熱海のみなさん、本当にありがとうございました!

來宮(きのみや)神社の情報

住所:静岡県熱海市西山町43-1
アクセス:「JR来宮駅」徒歩5分、「JR熱海駅」徒歩18分
電話番号:0557-82-2241
FAX:0557-82-2242
公式HP:http://www.kinomiya.or.jp/
御祭神:大巳貴命(おおなもちのみこと)五十猛命(いたけるのみこと)日本武命(やまとたけるのみこと)
ご神徳:大巳貴命(おおなもちのみこと)良縁・営業繁盛・身体強健の神
五十猛命(いたけるのみこと)・樹木と自然保護の神
日本武尊(やまとたけるのみこと)・武勇と決断の神
創建時期:少なくとも1300年前
御朱印:有り
拝観料:無し
来宮神社|ホトカミ

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