出雲の神社お寺、風光明媚な山・川・湖や食べ物の風土に抱かれて、
「なんだか風が気持ち良いな」
「お陰様で、生きているなぁ」と”感じる”ことで、
人間性を取り戻すきっかけにしてもらえたらなと思います。
そう話してくださったのは、島根県出雲市にある万九千(まんくせん)神社の錦田 剛志(にしきだ つよし)宮司です。
万九千神社は、日本中から出雲に神さまが集まる神在月(かみありづき)の最後に、
神さまが立ち寄り、直会(なおらい)という宴をおこなうと伝えられている神社です。
こんにちは。
神社お寺の投稿サイト「ホトカミ」の運営 代表であり、
出雲観光大使もつとめる、吉田 亮です。
ホトカミに集まっているのは、
神社お寺にお参りされる20代~50代を中心とした一般のユーザーさんと、
日本全国の神主さん、お坊さんたち。
ホトカミでは「出雲大社以外の出雲の神社を知りたい!」というユーザーさんからの声を受けました。
質問を受け、真っ先に思い浮かんだのが、万九千神社の錦田宮司です。
私は以前、出雲へ行ったとき、実際に万九千神社にお参りして、
錦田宮司の古事記の講義を聞かせていただいたことがありました。
その古事記の講義が本当に面白かったのです。
そこで今回は、島根県出雲市にある万九千(まんくせん)神社の錦田 剛志宮司から、
日本中から神様が集まる「神在月(かみありづき)」にあたる、11月30日にお話をうかがいました。
吉田 亮
神社を継ごうか企業に就職するか、迷う方も多くいると聞きます。
錦田宮司は、幼い頃から万九千神社を継ごうと思っていたのですか?
私は4歳の頃から神楽(かぐら)の練習を始めていましたし、
神社の家に生まれたことを誇りに思っていました。
しかし、島根県教育庁で働きながら神社にも奉仕していたときは生活が苦しかったですね。
「神社での奉仕に専念したい」という想いもありました。
そんななかでも、八百万の神様にお仕えすることができるということに、
誇りを持って神社に奉仕していました。
私は毎年、神社庁の講習で学生たちに教えているので、
神主になるかどうしようと、相談を受けるのですが、
継ごうか迷っている方には、こう伝えています。
「選ばれたと思い、諦めなさい。」
能力の有る無し関係なく、一生懸命やったら道はひらける。
ひたすらに一生懸命勉強して、
人柄よく、神様にも人にも好かれる神主になったらええんやないの。
仲間もいるから一緒に頑張ろう。
と声をかけています。
迷っている方には、勇気が出る言葉ですね。
なぜ島根県教育庁をやめて、神社に専念しようと決断したんですか?
島根県教育庁では文化財の専門職として、県立出雲古代歴史博物館の立ち上げなどにも尽力しました。
40歳も過ぎ、人生の折り返し地点になったとき、
公務員の代わりは、他にもいるかもしれない。
しかし私が、未来の日本、そして世界のためにできることは、
神社を少しでも良い形で繋いでいくことなのではないか、という使命感に駆られました。
そして、退路を断つ、というのが一番の理由でした。
平成26年(2014)に、万九千神社の遷宮(せんぐう)(注1)を行いました。
この遷宮のためには、奉賛金が必要です。
しかし、公務員との二足のわらじを履きながらでは、
とても遷宮を実現できそうにありませんでした。
そこで、一度収入がゼロになることも覚悟しながら、
退路を断つために公務員をやめ、神社に専念することにしました。
涙が出るほど、つらい時期もありましたが、
たくさんの方の協力のおかげで、無事に遷宮を行うことができました。
以前、参加させて頂いた錦田宮司の古事記のお話は本当にとても面白かったです。
どういったきっかけでお話されるようになったんですか?
せっかく出雲神話のふるさとに生きているわけだから、
神話を語り継がなければならない、という使命感は公務員の頃からありました。
そして、実際に語ってみると、ニーズがあったんですね。
人々が強く求めていたんです。
もちろん神社関連の方に話すこともあれば、政治家、ビジネスマン、一般の方に話すこともあります。
多いときは1年に100回以上と、様々な場所でお話しています。
神社を中心としたコミュニティが崩壊しつつあり、
昔ながらの氏神信仰を維持することはできないかもしれません。
しかし、自然や神さま仏さま、そして目に見えないものに対する、
感謝の気持ちや、畏れ多いという感覚は変わることはありません。
私は、こういった日本の心を繋いでいくためにも、
古事記などのお話をしています。
日本の心を繋いでいくというお話がありましたが、
伝統を受け継ぐとは、どういうことなんでしょうか?
伝統を受け継ぐとは、
「ずっと同じことを頑なに守り続けていくこと」
と思う方もいるかもしれません。
しかし出雲大社の千家和比古(せんげ・よしひこ)権宮司(ごんぐうじ)(注2)が、
「伝統を受け継ぐとは、大事な部分を大切にしながら、
時代ごとに神さまが一番およろこびになる、
もしくは社会が一番求めているかたちでお祭りを続けていくこと」
とおっしゃっていました。
変わらない大事な部分は大切にしながら、
時代に合わせたかたちで、皆さんと神さまをお繋ぎする役目を担っていくべきだと思いますし、
実際にそれが求められていると感じます。
私たちは「100年後にも感謝される仕事をしよう」とホトカミを運営しています。
錦田宮司が100年後の神社のために、何か実現したいことはありますか?
万九千の森を蘇らせたいです。
今はありませんが、かつてはここに豊かな森があったんですね。
古文書や地元の伝承にも、「万九千のモリ」に関する記録が伝わっています。
その豊かな森を蘇らせたいです。
もちろん私の代だけでは、実現できません。
幸い、後継ぎにも恵まれていますし、21世紀を通してみんなで植林し、
神在月に神様が集い、直会(なおらい)をする森づくりを目指したいです。
そして、次の100年200年、いや1000年先に繋げていきたい。
万九千神社にお参りされる方は、増えているのでしょうか?
お陰様で、参拝者は増えています。
しかし、その8割は島根県外の方です。
神社って、空気のような存在になっているのかもしれませんが、
地元の方に、もうちょっと足を運んでほしいものです。
良いことがあったときも、つらいことがあったときも、
気軽にお参りして頂けるようなお宮でありたいなと思っています。
県外の方は、都市化した社会の中で、
失われた何かを求めて来られる方が多いんじゃないかなって思うんですよね。
世の中って目に見えるものだけで、できているわけではないです。
例えば、義理や人情、縁(えにし)(注3)、なんでも良い。
その目に見えないものは、決して頭で考えるものではありません。
出雲の神社お寺、風光明媚な山・川・湖や食べ物の風土に抱かれて、
「なんだか風が気持ち良いな」
「お陰様で、生きているなぁ」と”感じる”ものです。
そうやって、人間性を取り戻すきっかけにしてもらえたらなと思います。
そして、それぞれの土地に帰って活躍してもらえたら、
日本も元気になるんじゃないかなと思います。
ホトカミには、神社によくお参りされる方が集まっています。
そんなユーザーさんたちが、もっと神社に親しむコツを教えて頂きたいです。
神社に親しむコツは、
質の良い神主の話を聞くことです。
これはとても大切です。
ここでいう質の良い神主では、
・人柄が良い
・勉強熱心
この2つが大事なポイントになります。
人柄が良く、勉強熱心な神主さんであれば、
神社のご祭神やご由緒などを、お参りに来た方に合わせて教えて下さるでしょう。
その上で、神社のご由緒を手に取って読んでみたり、
古事記を読んでみたりすることもオススメです。
ご由緒には、人々の喜びや戦乱の悲しみ、喜怒哀楽が詰まっています。
わからないなりに読んでみながら、想いを馳せてみる。
そして最近では、古事記の勉強会なども増えてきています。
そういった場所に足を運ばれてみるのも良いかもしれません。
最後に、日本中に集まるホトカミのユーザーさんにひとことお願いします。
インターネットって、間違いなく現代の縁結びの重要な場所です。
同じ趣味や、感性の人々が集う素晴らしい場所だと思います。
インターネットをきっかけにして、自分一人で生きているんじゃないな、
お陰様で生かされているんだなと気付き、
様々な神社仏閣にお参りして心穏やかに、心豊かになって頂ければ嬉しいです。
インターネットを通して、現実の世界のどこかでお会いする場があれば、
ぜひ、私もその輪に入りたいです。
錦田宮司、貴重なお話伺わせていただき、ありがとうございました!
実は錦田宮司とお会いするのはこれが3回目でした。
1度目は万九千神社での古事記の勉強会、2度目はとある神社でのお祭りでした。
お会いする度に、錦田宮司の言葉をユーザーさんたちに伝えたいという想いが募っていました。
そのため今回はお話を伺わせて頂くことができて、本当にうれしかったです。
なかでも万九千の森を蘇らせたい、という想いにはとても共感しました。
また「神職の資格を持っていない私が古事記について語っても良いのでしょうか?」
と相談したところ、
「本居宣長も資格なんて持っていなかったでしょ。おおいに語ってください」との励ましの言葉をいただきました。
実際に「スタディ古事記」と題して、古事記の勉強会を開催しました。
インタビューの次の日、再び、万九千神社を訪れました。
そして、皆さんのお願い事や名前を書いたご縁ポストの奉納の布を1年間、
万九千神社に奉納させていただいたのち、1年後、正式に出雲大社に奉納させていただきたい、と錦田宮司にお願いしたところ、快諾してくださりました。
ご縁ポスト奉納の布は、1年間、万九千神社に奉納されています。
そして、2018年の神在月の頃、改めて出雲大社に正式に奉納させていただきます。
錦田宮司、本当にありがとうございます!
記事を読まれた皆さん、ぜひお参りしてください。
みなさん、ぜひ万九千神社にお参りし、
ホトカミに投稿してみてください。
私も2018年の神在月にまたお参りするのが本当に楽しみです!
出雲へお参りされる方には、
錦田宮司の著書もオススメです!
錦田宮司にお会いする前から、「出雲大社ゆるり旅」は読んでいました。
わかりやすい説明に加えて、写真が豊富なので、この本を読むだけで出雲へ行きたくなります。
また、この本で予習してからお参りすると、お参りしたときの深みも増します。
こちらは、日本中の神さまが出雲に集う、神在祭についての大型の本。
出雲で宿泊させて頂いたご家庭にも、
取材させて頂いた馬木不動尊 光明寺にも、この本はありました。
(出雲では、一家に一冊あるのでしょうか?)
神在月の神事の様子を写真で見ることができる数少ない資料です。
住所:島根県出雲市斐川町併川258
最寄り駅:「JR出雲市駅」、一畑電車 「大津町駅」
アクセス:
飛行機をご利用の場合
・出雲縁結び空港から車で20分
鉄道をご利用の場合
・JR出雲市駅から車で12分
・一畑電車 「大津町駅」から徒歩18分(車で5分)
車をご利用の場合
・斐川インターから車で20分
・出雲大社から車で25分
駐車場:
自家用(約50台)車・大型バス(約10台)共に駐車可能です。
神社前の公園及び境内地をご利用ください。
電話番号・FAX:0853-72-9412
公式HP:http://www.mankusenjinja.jp/
御祭神:櫛御気奴命(くしみけぬのみこと)、大穴牟遅命(おおなむちのみこと)、少彦名命(すくなひこのみこと)、八百萬神(やおよろずのかみ)
ご神徳:天下泰平・諸願成就・風雨順時・五穀豊穣・諸産業繁栄・良縁成就・病気平癒・医薬発展・牛馬安全・会議宴会円満・飲食業繁栄・商売繁盛・旅行交通安全・起業、進学、就職成就 など
創建時期:少なくとも1300年前
御朱印:有り
拝観料:無し
万九千(まんくせん)神社|ホトカミ