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耕田院の日常(308回目)山形県羽前大山駅

ナッジ理論と共感、そして「護美箱」

投稿日:2023年07月01日(土)
ナッジ理論と共感と「護美箱」について考えた。輪橋山徒然話2023/6/18

◆ナッジ(Nudge)の意味は「(合図のために)肘で小突く」、「そっと突く」ことだ。

◆2017年ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のリチャードセーラー教授による行動経済学に基づいた「人々が強制的にではなく、よりよい選択を自発的に取れるようにする戦略」をナッジ理論という。

◆ナッジ理論はなかなかよくできている。
代表的な例をあげよう。

◆いつも汚れている空港の男子トイレをどうしたら汚れないようにできるかと考えたそうだ。そこで、男性用公衆小便器の真ん中に「イエハエ」の絵を描く試みをした。そうすると男性がこの絵をめがけておしっこをするようになった。その結果としてトイレ清掃費を8割節約できたそうだ。ちょっとしたきっかけを作って良い行動に誘導できたのだ。

◆例えば「トイレを汚さないでください」と張り紙をしても誰も見ないし、むしろ汚してやろうみたいな人も出てくる。でも「イエハエ」の絵を書くことで「きれいにしましょう」と言わなくても結果的に綺麗になった。人々を強制ではなく、無意識に誘導する。それがナッジだ。

◆「相手に自分の望む行動を取らせる」方法なのだ。相手は「自分が選んだ」と思っているが、実はこちらが望んだ行動だ。まったく無意識のうちに 誘導されていることさえある。

◆これもゴミの話だが、ある都市で「ゴミを路上に捨てると汚れるのでゴミ箱に捨てて街をきれいにしましょう」といったスローガンを出したが、都市の美化は進まなかった。

◆それでナイキ(NIKE)がゴミ箱にバスケットのゴールをつけた。すると驚くことにみんながゴミ箱に捨てるようになったという。ゴミを拾って投げ入れて、はずれたらもう一回入れるようになる。これもナッジだ。

◆二つのナッジは、人々を自然に誘導する「遊び心」があって楽しい。確かに、汚れは減り、ゴミはゴミ箱に入った。しかし、何か物足りない気がする。

◆あるお寺でのこと。梅花の講習会に伺ったお寺は、凛とした空気感。整美された広い本堂は、塵ひとつなく、研修を受ける講員さんの表情も明るい。

◆廊下に一つ「護美箱」という箱が置かれていた。

◆「ゴミバコ」と読むのだが、自分のポケットに入っているゴミを捨てる箱には見えない。それどころか、いつまでもこの清々しい場所と時間を共有しましょう、あるいはお寺の護持しようというメッセージが聞こえてくる気がした。

◆これは、「護美箱」の「護美」という文字の力が成せることだと気がついた。「護美」というこの文字の力がナッジとなり、人を立ち止まらせ、考えさせたのだ。

◆「護美」のナッジが導くところは、ゴミを拾うという行動だけではなく、日々、整美に心を砕き、美しさを保ち護っているこのお寺の清々しさの背景にあるものへの強い共感なのだ。

◆終わりに、瀬戸内寂聴さんは、「お経の功徳」について次のように説かれている。

お経を写すことを「写経」、持つことを「持経」(じきょう)、口であげることを「誦経」(ずきょう)といいます。そしてこの三つにはお経の功徳があります。写経、持経、誦経のとれもが自分の心を落ち着かせ、平常心を蘇らせ、そこから正しい判断を生む…と。
(寂聴 般若心経)

◆つまり、これも共感できるナッジ理論だ。

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