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耕田院の日常(297回目)山形県羽前大山駅

「ボケる」というのは、仏様になること

投稿日:2023年06月20日(火)
ボケるというのは、仏様になることです。」について考えた。輪橋山徒然話 2023/6/4

◆先日は、脳科学者の黒川伊保子さんの「主語なしNO(ノー)」について紹介した。

◆人間の脳は、主語がないと、主語を勝手に補完する性質がある。たとえば、上司が「(このやり方は)ダメだ」と言ったとする。この時、部下には「おまえはダメだ」と聞こえているのだ。非常に「ネガティブ」な補完になってしまうので要注意だとの内容だった。

◆今朝も「脳」の話。

◆養老孟司先生と小堀鴎一郎先生の対談(「死を受け入れること-生死をめぐる対談-」祥伝社)から、「視覚・聴覚と辺縁系」について紹介し、「ボケるということ」について考えたい。 

小堀先生の質問から始まる。

小堀
これは脳と関係があると思うから、養老先生にお聞きしたいのです。80代の男性患者で何か外部で変化があると、「バカ、バカ」という人がいるんです。幸い奥さんには言わないのですが、看護師が血圧や体温を調べようとしても「バカ」と言って測らせない。

ところが、娘から電話がかかってくると「元気かい?」と機嫌よく声をかける。だけど、その娘が面会に来ると「バカ、バカ」という。

僕が考えたのは、脳のどこかに、その娘が少女時代、自分が育てた三歳か四歳頃の音声で彼の脳を刺激するところがあるのではないかと。しかも電話でないとだめなんです。

養老
「カプグラ現象」というのがあって、それにかかった人は自分の母親や父親をそうでない知らない人だと言うんです。

ところが電話で話すと本当の親だという。僕が聞いた説明ではその場合視覚と感情。要は脳の辺縁系と結びつく経路が切れているけれど、聴覚と辺縁系の経路は切れていない。だから声を聞けば懐かしいとか親しいとかという感情が起こるんだけど、(切れた)視覚からはそういう感情が起こらない。

◆脳のメカニズムについて一つ飲み込めたような気がした。

◆自分の娘に「バカ、バカ」という80代の父親は、以前の人格ではない。しかし、それは、脳に残っている記憶・辺縁系と視覚がつながっていないだけなのだということだ。しかも、電話の声には娘だと理解して「元気かい?」と声をかけるという。この時は、脳に残っている記憶・辺縁系と「聴覚」がつながっているということなのだ。

◆だから、80代の父親が「バカ」といっているのは辺縁系と「視覚」が切れたからで、「あなたのことわからないわ」というのも辺縁系と「視覚」が切れたからなのだ。

◆ただ視覚が排除された (相手の見えない)電話では、「聴覚」だけがつながっているということなのだ。聴覚以外の他の感覚も繋がっているかもしれないのだ。

◆この前、お寺にいらした方は般若心経に反応された。目に光が差し、頬に赤みがさし、表情がお変わりになった。写経を長くなされた方だった。

◆その時は般若心経のお力と思ったが、それだけではなく、たぶん般若心経の響きが脳の辺縁系と繋いだのだ。

◆「ボケるというのは、仏様になることです。」と瀬戸内寂聴さん。黒川伊保子さんも何年もかけて脳の活動を少しずつ停止し、そして死んでいく「楽に逝くためのプログラムの発動」であると。つまり、脳が予め寿命を知っていて、死に向かってゆっくりと進んでいくのだと。だから、脳の導きに従えばよいと。

◆「ボケる」というのは、仏様になるためのステップとして脳が視覚と辺縁系とを自ら切ったということなのかもしれないと思った。

※小堀 鷗一郎医師
国立国際医療研究センターに外科医として約40年間勤務。定年退職後、在宅診療に携わる。自身の訪問診療医としての看取りの経験をもとに「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」森鴎外のお孫さんだ。

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