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耕田院の日常(284回目)山形県羽前大山駅

口唇に微笑みを

投稿日:2023年06月06日(火)
◆昔、宝塚には「ブスの25箇条」が張り出されてあったそうだ。ブスの由来はトリカブトという猛毒にあるという。  輪橋山徒然話 2023/5/22

◆その花は美しく妖しい。

◆青紫の花のトリカブトは「鳥兜」と書くように、雅楽のときに頭に乗せる烏帽子とそっくりだ。しかし、トリカブトという名前の植物は存在せず、一般的にはキンポウゲ科トリカブト属の植物のことを指し、日本には三十種ほど自生しているそうだ。

◆美しい花には棘があるというが、この植物は棘どころか猛毒を持つ。一説には弥生時代にはすでに狩りのためにこの毒が使われていたと言われているし、実際にはアイヌがクマを射るための毒矢としても用いてきた。東海道四谷怪談でお岩さんが飲まされた毒もトリカブトだし、トリカブト殺人事件で多数ヒットする。西洋ではこれを食べると狼男になるという伝説さえもある

◆このトリカブトは、根で冬を越す。親芋に相当する塊根(母根)から新たな塊根(子根)ができ、それが次の年の母根になる。冬越した子根のことを「附子」という。この塊根が猛毒なのだ。

◆「附子」といえば狂言の演目がある。小学校5年の国語でも扱う。

◆覚えているだろうか。こんなあらすじだ。

登場人物は、お馴染みの太郎冠者(たろうかじゃ)と次郎冠者(じろうかじゃ)とその主人。

ある家の主が、「附子という猛毒が入っている桶には近づくな」と使用人である太郎と次郎に言いおいて外出する。しかし、二人は附子のことが気になって仕方がない。主人からは「毒の入った桶から流れてくる空気を浴びただけでも死んでしまう」と言われていた二人は、扇を使って空気をかわしつつ接近を試み、とうとう桶の中身を覗いてみた。するとどうであろう、毒であるはずの附子なのだが、大変おいしそうに見えるではないか。

太郎が附子をなめてみると毒というのは全くの嘘で、正体は砂糖。二人は奪い合うようにして砂糖を食べつくしてしまった。

このあと二人がとった行動が面白い。なんと主人が大切にしている茶碗と掛け軸をめちゃめちゃに壊したのだ。

帰ってきた主人が泣いている二人と、破れた掛け軸、壊れた茶碗を発見し、二人に事情を聞く。そこで二人は、「死んで詫びようと毒だという附子を食べたが死ねず、困っている」と言い訳する。

◆テレビも映画もない、今とは違う品のよい「笑い」がある「附子」。「附子」の毒の特徴は誤って口に含むと神経麻痺になることだ。そのため苦しみの中で無表情となる。その無表情を「附子」と言いうのだ。

◆幼い子どもは、不満があるとき「ほっぺた」をふくらます。清少納言風に「いとかわい」なのだが、少し大きくなると「ほっぺたをふくらます」ことなどしない。無表情の「ブスッと」となる。された方は「ムッと」くる。

◆そうか、無愛想な、無表情が「ブス」の語源なのかと納得した。

◆だから、宝塚には伝説のブスの25箇条の第一条は。第一条は「笑顔がない」なのだ。「笑顔がない」とは、「高嶺の花」宝塚ジェンヌが毒殺された死に顔にも等しいということなのだ。

◆そのほかにも宝塚ブスの25箇条には辛辣なものがあったので紹介しよう。

・いつも口がへの字の形をしている
・自分がブスであることを知らない
・責任転嫁がうまい
・いつも周囲が悪いと思っている
・存在自体が周囲を暗くする

◆「・」の後に「あなた」と主語を入れて読むとよくわかる。厳しい、厳しい「芸」の世界だ。

◆さて瀬戸内寂聴さんは「笑顔」についてこう話されている。

笑える余裕を持ちましょう。幸せは笑顔が好きです。私は「笑うと不器量でも可愛くみえるから、いつも笑っていなさい」と母によく言われていました。

◆寂聴さんのお母さまらしい。さすがである。

◆今週も 「口唇に微笑みを」で。いつもニコニコハラタテマイゾヤソワカ
耕田院(山形県)

すてき

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