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耕田院の日常(213回目)山形県羽前大山駅

織田信長も傾奇者の前田慶次も破天荒ではない

投稿日:2023年03月10日(金)
◆「がぜん、破天荒なことに挑戦したくなったよ」と息子にいわれたらどう思うであろうか。不良宣言のように聞こえるが…。

◆日本人なのに「今更もとには戻らない」間違いだらけの日本語について、文化庁の国語世論調査を参考に考えてみた。取り上げた言葉は「がぜん」と「破天荒」だ。

◆まず「がぜん」という言葉の次の使い方はどうであろうか。

(あ) こちらのほうが、「がぜん」優れている
   こちらがが「がぜん」有利だ。

◆結論から言うと「とても、断然」優れている・有利という意味で使っているのだが、これは誤りである。文化庁の調査では、60代さえ68%の人が「がぜん」の意味は「とても、断然」と思っていた。もちろん、私もそうだ。

◆しかし、辞書をいくら引いても「がぜん」には「とても、断然」のような意味はない。そもそも「がぜん」とは、「俄然」と書く。俄は「にわか」と読み、だしぬけとか、急にという意味なのだ。

◆「俄然」とは、物事がにわかに起こるさま。急に一変した状態になるさま。急に降り出した雨のことを「俄雨(にわかあめ)」というように使うのが正しいのだ。

◆誤用の原因は、混同しやすい熟語があったからだ。たぶん「断然」が原因だろうということだ。「断然優れている」とつかう方が正しいのだ。そこまで言われると納得する。

◆だから、息子の「がぜん挑戦」の意味は、断固としてと言う意味ではなく、急に挑戦したくなったという意味になるのだ。

◆それでは「破天荒」のはどうだろうか。

(い) 織田信長も傾奇者の前田慶次も破天荒だ。それに比べて家康は穏やかだ。

◆さて、この破天荒は「豪快・大胆」という意味だ。しかし、辞書的な意味は「誰もなし得なかったことをすること」という意味であり、「豪快・大胆」という意味などないのだ。

◆それは、語源から明らかだ。そもそも「破天荒」は宋の時代の説話集『北夢瑣言(ほくむさげん)』にある故事に由来するそうだ。「天荒」とは、まだ開かれていない土地、未開の地のことを指す。唐の時代の荊州(けいしゅう)という場所は科挙(かきょ・高等官吏資格試験)に合格する者が百年以上も現れないために、「天荒」と呼ばれていた。

◆しかし、ある年,劉蛻(りゅうぜい)という人物が初めて科挙に通り、ついに「天荒を破った」,つまり「破天荒」と賞された。この故事から,「誰もできなかったことを初めて成し遂げること」という意味で「破天荒」という言葉ができたのだ。また、それが転じて、「これまでにはなかったこと。未曽有のこと」という意味で使われるのだ。

◆織田信長や戦国時代の前田慶次の「かぶきもの」ではなく、誰も合格したことのない試験を突破するほどの秀才のことを「破天荒」というのだ。なんとこの語についての60代誤答率は63%だ。

◆だから、「がぜん、破天荒なことに挑戦したくなったよ」とは、百年以上も合格者のいない試験に合格するような、だれもできなかったことに、急に挑戦したくなったという気概に満ちた立派な若者のことばなのである。不良宣言ではないのだ。

◆「今更もとには戻らない」間違いだらけの日本語は親子関係も壊してしまいそうだ。
耕田院(山形県)

すてき

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