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耕田院の日常(159回目)山形県羽前大山駅

「ウルフムーン」

投稿日:2023年01月10日(火)
◆今晩は「ウルフムーン」。今年最初の満月である。冬の夜空に冴え冴えと昇る満月である。雪を照らし、十分に明るい。ありがたい。今朝の輪橋山徒然話は、金子みすゞさんと人工の月計画と三好達治さん。

◆さて、金子みすゞさんに「月のひかり」という詩がある。

月のひかり
1
月のひかりはお屋根から、
明るい街をのぞきます。

なにも知らない人たちは、
ひるまのように、たのしげに、
明るい街をあるきます。

月のひかりはそれを見て、
そっとためいきついてから、
誰も貰もらわぬ、たくさんの、
影を瓦にすててます。



◆この一番は夜の歓楽街の描写だろうか。夜の街に繰り出す人たちをみて、そっとため息をついている月である。月はみすゞさん。寂しそうだ。きっと夫婦での暮らしがうまくいかなかったこともあるのだろう。

◆二番はさみしい「みなしご」の住む裏町を照らす月である。
2
月のひかりはみつけます、
暗いさみしい裏町を。

いそいでさっと飛び込んで、
そこのまずしいみなし児が、
おどろいて眼をあげたとき、
その眼のなかへもはいります。
  ちっとも痛くないやうに、
  そして、そこらの破屋が、
  銀の、御殿ごてんにみえるよに。

子供はやがてねむっても、
月のひかりは夜あけまで、
しずかにそこに佇ってます。
  こはれ荷ぐるま、やぶれ傘、
  一本はえた草にまで、
  かわらぬ影をやりながら。

◆二番は「暗いさみしい裏町」。まずしいみなし児を照らすみすゞの月だ。満月の光に驚いた貧しいみなし児が、眼をあげたとき、その眼のなかへ入り、そこらのあばら屋が、銀の、御殿にみえるように照らすのだ。「こはれ荷ぐるま、やぶれ傘、一本はえた草にまで、かわらぬ影をやりながら」夜明けまでやさしく照らすのだ。その子がゆっくりと安心して眠れるように。みすゞの月幸せとみなしごの幸せがある。

◆1番は明るく賑やかなのになぜか寂しい。2番は反対に暗くて侘しいのに、そこを御殿のように明るく、安心できる空間と時間を月の光が作り出す。その対比が彼女らしい。

◆大正から昭和の初めの時代である。今ほど電灯も明るくなかったろう。だから、月の出る夜は格別だったろう。このころ東京市内の家庭には電灯が完全普及。ラジオ放送が始まったとか。

◆さて現代である。またまた、人間はとんでもないことを考えていた。地上が明るすぎて星が見えないと天文ファンがまたまた嘆く計画は「人工の月」。夜でも地球を明るく照らそうというのだ。

◆その方法は、人工衛星を使って太陽の光を反射させて、夜の地球を照らすのだ。普通の夜には、月と一緒に照らすことで8倍の明るさになるという。東京23区の端から端までの距離30kmと聞いたことがあるが、一つの人工衛星で直径80kmもの広さを照らすことができるそうだ。

◆三好達治の「雪」である。



太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

夜は静かで、暗いほうが落ち着く。しかし、人工月の時代には、太郎も二郎も草も木も眠れぬ夜が続くのであろう。
耕田院(山形県)

すてき

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