マカセ稲荷のお参りの記録(1回目)
神奈川県京急長沢駅

マカセ稲荷は、神奈川県横須賀市長沢に鎮座している小さな稲荷社である。京急線京急長沢駅より徒歩10分。

先行研究によれば、16世紀ごろ、紀州の漁民たちがこの地域に移り住み、「マカセ漁法」と呼ばれる独自の鰯網漁法をこの地にもたらしたとされている。この漁法は従来の漁業手法に一大変革をもたらし、地域の漁業の発展に大きな影響を及ぼしたという。まさにこの漁法の伝来は、長沢一帯のみならず、今日の呼称である広く東京湾の漁業史における転機であったといえる。

こうした歴史的背景をふまえると、マカセ稲荷の創建には、漁業従事者たちが日々の操業の安全や、豊漁を願う気持ちが込められていたのではないかと推察される。荒波とともに生きる漁師たちにとって、神仏にすがる気持ちは切実であったことだろう。

実際、マカセ稲荷からおよそ100メートルほど進むと、すぐに海に出ることができる。さらに数分歩けば、北下浦漁港という第一種漁港にたどり着く。この漁港は規模こそ大きくないものの、今日でも鰯などの水揚げが行われており、地域の海産業の拠点として機能している。

そう考えると、マカセ稲荷は今なおこの地に暮らす漁業関係者たちにとって、心の支えとなっている存在なのかもしれない。海と共に生きる人々の願いを、静かに受け止め続けてきた小さな社には、地域の暮らしの歴史と祈りが凝縮されているように感じられる。

なお、本稿は学術論文ではないので、参考文献などの情報は割愛する