榎稲荷神社のお参りの記録(1回目)
東京都国立競技場駅

榎稲荷神社は、東京都渋谷区千駄ヶ谷に鎮座する小さなお稲荷さまです。最寄りのJR中央線・千駄ヶ谷駅から徒歩8分ほど。駅を出て、鳩森八幡神社の大鳥居を右手に見ながら進み、境内沿いに歩いていくと、やがて正面鳥居も右手に見る位置に出ます。そこから真っ直ぐの坂を少し下った左手に、榎稲荷神社がひっそりと鎮まっています。鳩森八幡神社の旧将棋会館へと降る坂とは別の道筋にあり、知る人ぞ知る場所といった趣です。

参道の先には、コンクリート製で頑強そうな映える鳥居が見えます。小ぶりながらも鮮やかで、ここに稲荷神が祀られていることを静かに告げています。鳥居の奥には祠があり、その奥をさらにたどると、短いながらもジグザグに登る階段が続きます。段を上りきると、流造を模した端正な社殿が姿を現します。境内全体が小高い地形に沿って配置されており、空間の限られた都心にあって、立体的な構造が印象的です。

社殿の傍らには由緒書が設けられていますが、これが漢文調でなかなかの難解さ。古い文体ゆえに一読では意味を取りにくいものの、要旨を読み解くと、かつての社殿は戦災によって焼失し、戦後になって新たにこの地へと遷座されたことが記されています。焼け跡から立ち上がるように再建されたこの神社には、戦後復興期の人々の信仰と再生の思いが込められているのでしょう。

境内は決して広くはありませんが、木々の間を吹き抜ける風が心地よく、都心とは思えないほどの静けさがあります。周囲には鳩森八幡神社や将棋会館といった文化的な施設が点在し、信仰と知の土地・千駄ヶ谷らしい趣を感じさせます。社号に「榎」とあるように、境内の一角には立派な榎の木が根を張り、長い年月をこの地で見守ってきたようにも見えます。小規模ながらも、歴史の重みと静かな存在感をあわせ持つ神社です。