鳩森八幡神社のお参りの記録(1回目)
東京都北参道駅

東京都渋谷区千駄ヶ谷に鎮座する鳩森八幡神社。最寄りのJR中央線千駄ヶ谷駅から徒歩5分ほどの距離にあり、駅を出て外苑方面へ歩を進めると、やがて鳥居と緑に囲まれた境内が視界に入ってきます。御祭神は応神天皇と神功皇后であり、創建は平安時代初期の貞観2年（860年）。比叡山延暦寺の高僧である円仁（慈覚大師）がこの地を訪れた際、八幡宮としてお祀りしたのが始まりと伝えられています。千年以上に及ぶ歴史を持ち、今日に至るまで地域の守護神として信仰を集めてきました。

境内には三つの末社があり、それぞれに特色を備えています。甲賀神社は御祭神に宇迦之御魂神を祀り、もともとは別の場所にあったものが明治18年（1885年）に当地へと遷座しました。富士浅間神社は御祭神に木花咲耶姫命をお祀りし、寛政元年（1789年）に築かれた富士塚を有することで知られています。この富士塚は都内でも古いもののひとつで、今なお多くの参拝者が富士登拝の疑似体験を求めて足を運ぶ名所です。さらに神明社は御祭神に天照大神を祀り、明治41年（1908年）に創建されました。これら三社はいずれも本社とともに千駄ヶ谷の人々の信仰を支え、鳩森八幡神社の豊かな宗教的景観を形作っています。

境内の見どころは末社だけにとどまりません。将棋堂には将棋の駒を象った奉納品が数多く納められており、棋士や愛好家の祈願の場としても知られています。また前述した富士浅間神社の富士塚は登ることが可能で、江戸時代の人々が富士山信仰を身近に実践した歴史を今日に伝えています。高く積み上げられた溶岩石を踏みしめて登ると、境内全体を見渡すことができ、都会の真ん中にいながら古代の信仰に触れる不思議な感覚を覚えます。

鳩森八幡神社のホームページによれば、現在目にする社殿の多くは戦後に再建されたものです。先の大戦で境内の建物はほとんどが戦災により焼失し、その後地域の人々の尽力によって復興を遂げました。社号に「鳩」という平和の象徴を冠しているにもかかわらず、戦火によって大きな苦難を経験したという事実は、なんとも皮肉であり、同時に人々の信仰心の強さを物語っています。焼け跡から再び立ち上がった神社の姿には、困難を乗り越えてきた歴史の重みが刻まれています。

現在、境内には参拝者や散策に訪れる人々の姿が絶えません。休日ともなれば、富士塚に登る家族連れ、将棋堂を訪れる将棋ファン、そして本殿に静かに手を合わせる人々が入り交じり、都会のオアシスとしての賑わいを見せます。高層ビルやスタジアムの立ち並ぶ外苑エリアの中にありながら、境内の緑と清らかな空気は別世界のようで、訪れる者に静けさと安らぎを与えてくれます。

平和の象徴である鳩の名を持ちながら、戦災で一度姿を失い、再び復興を果たした鳩森八幡神社。いま目の前に広がるこの穏やかな光景が未来永劫続いていくことを願わずにはいられません。